婚約者と仲良くなれないのは残念です。しかし相性というのはあるものなので仕方ない部分もあるのかもしれません。~愛する人と幸せな道を~
十八になった春、オンドレーヌという男性と婚約した。
彼は私より二つほど年上。同い年ではない。けれども、それほど年の差がないこともあって、こちらとしては良い関係を築いていけるのではないかなと思っていた。大きな年の差があるなら話は変わってくるだろうが二つ程度の差であればさほどそれによる害はないだろう、と。
しかしオンドレーヌは私を嫌っていた。
顔を合わせれば不快そうに口角を下げる。
口を開けば嫌みやら嫌がらせのような言葉ばかり投げつけてくる。
そんな人と仲良くなれるはずもなく。
気まずい関係のまま半年が過ぎた。
――そしてついに。
「あんたとの婚約は破棄するから」
終焉を告げられる日がやって来てしまった。
「あんたみたいな女、一緒にいても面白みないから。だからもうやめる。あんたと結婚なんかしない。俺はさ、もっと良い女性と幸せになりたいんだ」
彼は眉一つ動かさないままでそんなことを言った。
そうだったのか……。
仲良くなろうという気なんて少しもなかったのか……。
分かってはいたけれど、改めてその現実を突きつけられると悲しくもなる。
ただ、今のまま彼と結婚しても良い未来は待っていないだろう、とは思っていた。
だから私は婚約破棄を受け入れることにした。
今は悲しくても、傷ついても、彼と共に歩まないことによって生まれるメリットは確かにあるはず――ならば彼と異なる道を歩き出すというのも悪いことではないのかもしれない。
さよならの先にはきっと希望ある未来が待っている。
そう信じて、彼には別れを告げよう。
◆
三年後の春。
愛する人と共に式を挙げた。
オンドレーヌに婚約破棄された後に出会った男性と意気投合し、交際を開始、その後婚約して――ついに結婚式、それにより私たちは正式な夫婦となったのだ。
「このチョコ美味しいわね!」
「うん~」
「もう食べた?」
「食べた」
「どうだった? 美味しかったでしょう?」
「うん美味しかったよ~」
夫となった彼は少々おっとりした人だ。
けれどもとても清らかで善良な人。
そしてどんな時も穏やかかつ心優しいのである。
「何味食べた?」
「イチゴかな~」
「私はミルクチョコよ」
「ぼくも食べてみようかな~、ミルク~」
夫婦となった、ここはまだスタート地点だ。
私たちが共に歩む人生。
今まさにその始まりに立ったところである。
「取る?」
「いいかな~」
「はい」
「わ~、ありがとう~。美味しそうだね、甘い香りしてる~」
「食べてみて食べてみて」
「気に入ったなら今度まとめて注文してもいいよ~?」
「ほんと!?」
「うんうん」
共に行く道の先に何があるかはまだ分からない。きっと、良いことも悪いことも、どちらもあるのだろう。けれども手を取り合っていられるなら大丈夫。良いことはより一層素敵な記憶になるだろうし、悪いことだって傷は小さくして何なら悪いことではなく良いことに反転させてしまえるだろう。
「私ももう一本食べようかしら……ミルクチョコ」
「食べて食べて~」
「じゃあいただいてくるわ」
「うんうん~」
ちなみに、オンドレーヌはというと、あの後貴族の令嬢に身勝手に手を出したために処刑された。もう彼はこの世にいない。彼という人間はこの世界から消滅した。
◆終わり◆




