踊る女が嫌だったのでしょう? なら踊らない女性が相手になって良かったではないですか。文句を言うのはなしですよ。
親の影響で小さい頃に始めた古くからこの国に伝わる伝統舞踊。早くに始めたこともあって十代後半にはかなり上達していて。業界内でも将来の担う踊り手だと話されているほどの技術に達していた。
しかし二十歳になった春、婚約者ヴォファートから否定されてしまう。
「踊りが得意? 馬鹿じゃないのか。踊りなんて、だらしなくてくだらない女がするものだ。高貴な女性は踊りなんてするわけがないだろう。ったく、婚約者が踊りを得意としているなんて恥ずかしい。そんなのは今すぐやめてくれ」
――これまで打ち込んできたことのすべてを。
「はぁ? 踊りは大切なもの? 知るか! お前さ、何勘違いしてんのか知らねぇけど、俺と一緒にいたいってんならそんなくだらねぇのすぐやめろよ。じゃねぇと俺お前と一緒にいねぇからな。下級女の真似事してるような女と結婚すんのとか、俺は絶対に嫌だからな」
彼は踊りというものにかなり否定的な人間だった。
なので私が大切にしてきたものを一方的に否定してきた。
だが私は踊りをやめられず、するとちょうど夏にさしかかる頃に。
「お前との婚約は破棄する」
急にそんなことを告げられてしまった。
「いつまで踊りやってんだよお前しつこいやつだな。男に言われたんならさっさと従ってやめろよ」
「……私にとっては大切なものなのです」
「はぁ!? 知らねぇよそんなもん!! 婚約者の男に言われてやめらんねぇなんてなぁ、お前、女として終わってんだよ!!」
「やめてください、そんな言い方」
「やめねぇ! そもそも間違ってんのはお前だろうが。まぁお前馬鹿だから分かんねぇのかもしれねぇけどよ。けど、男に逆らうとか、お前おかしいんだよ!」
――こうして私たちの関係は終わりを迎えた。
◆
あの婚約破棄から五年。
「今日も美しいわねぇ、尊敬しちゃう」
「あの踊りは国宝級ね」
「そんな素晴らしいものを生で見られるなんて最高ね。もう、始まる前から、いやいや何なら昨晩からウキウキしちゃって……夜も眠れないほどだったわ」
私は踊り手として成功を収めた。
国からも表彰を受けたほど。
誰もが私を称賛する。
あの時ヴォファートに悪く言われたからといって踊りの道を諦めなくて良かった――今は心の底からそう思う。
私は私の道を行こう。
どんな風に生きたって、どんな選択をしたって、結局それは私という一人の人間の人生なのだから。
で、あの心なかったヴォファートだが、彼はあの後親からの圧力でまったくもって好みでない性格も悪い女性と結婚しなくてはならないこととなったそうだ。
その女性は踊りはしなかったようだがそれ以上に問題点が多くて。踊らない女性ではあるのだがヴォファートは満足していなかった様子で。彼はいつも周囲に「あいつは性格が汚すぎる、サイアク」とか「あんなやつと結婚するくらいなら前の女と結婚する方がまだましだったな絶対」とかこぼしているそうだ。
◆終わり◆




