婚約者である彼は私の魔法の才能があることを知った途端豹変しました。~この力は世のため人のために使います~
三つ年上の赤毛が特徴的な男性アルク・エレフェンスは私の婚約者。
彼との関係は順調そのものだった。
何の問題もなかったし、お互い仲良くいられていた。
――私に魔法の才能があることが判明するまでは。
それはある夜のこと。山賊に襲われた私は死の危険に晒されて。その瞬間、この身に密かに宿っていた強大な魔力、魔法の才が開花した。
突如露わになったそれによって山賊を撃退することに成功、怪我なく無事生き延びられたのだが――その時からアルクは私に対して冷ややかな目を向けるよういなった。
彼は言う。
お前は悪しき魔女だ、と。
お前は穢れている、と。
どんな才能が開花しようとも私が私であることに変わりはないというのに、彼はその事実を理解できないようで。
「悪いがお前のような女とは親しくできない。婚約は破棄とする」
やがてそんな風に言われてしまった。
「残念だよ、まさかお前が魔女だったなんて」
「……婚約破棄だなんて、そんな……どうして」
「言っただろう! お前のような女とは親しくできない、と! 魔法を使うようなやつは穢れている。そんなやつは俺の結婚相手には相応しくないんだ」
そうして私たちの関係は終わってしまったのだった。
◆
――あれから十二年。
私は今、偉大なる善き魔女として、この国の頂に立っている。
アルクに婚約破棄され酷く落ち込んでいたちょうどその頃、国内で災難が多発するようになり、多くの人が傷ついたり亡くなったりした。それを見ていられなくて、私は、他人のためにこの身に宿る力を使った。すると多くの人を救うことができた。もちろんすべての人を救えたわけではない。ただ、この力によって護ることができたものも確かにあって。その働きは多くの人から称賛された。
あの時アルクは魔法を使える人間を悪のように言ったけれど。
それは間違いだった。
今なら胸を張って言える。
どんなものも使い方次第で良いものにできる、そういうものだ。
ちなみにアルクはというと、ある冬実家近くで雪崩がありそれに巻き込まれて亡くなったそうだ。
彼の最期は冷たく寂しいものだった。
魔法を使えばそういう人だって救えないことはないのだけれど、でも多分、彼は魔法に助けられたとしても魔法を褒めることはしないだろうから――そのままあの世へ逝ってしまう定めでも自業自得でしかないだろう。
◆終わり◆




