貴方のその選択は多くの人たちを不幸にするのですよ? 分かっているのですか?
「お前さぁ、マジ要らねぇわ」
婚約者ダーウィベルスがある日突然そんなことを言ってきた。
彼の傍らには私の知らない女性がいる。
砂糖を入れ過ぎたスイーツのように甘ったるい顔つきをした彼女は、嫌みまじりな表情をこちらへ向けてきていた。
「婚約、破棄するから」
ダーウィベルスはそんなことを平然と言ってくる。
……でも良いのだろうか?
私と彼の婚約は契約だった。
二人が未来を誓うことで彼の部族は滅ばずに済んでいる。
契約がある限り、諸事情により様々な国から命を狙われやすい彼の部族を我が国が護る――そういう話になっているのだが。
「本気で仰っていますか?」
「ああ」
「婚約が破棄になれば、我が国は貴方の部族を護ることはなくなるのですよ」
冷静さを失わないよう意識しつつ尋ねてみたのだけれど。
「いいんだ! そんなこと、どうでもいい! 俺は彼女を、ミミだけを、愛している。だから! 俺はミミと共に生きてゆく!」
彼の心は決まっていた。
一切揺らぐことはなく。
――そうして私たちの関係は終わりを迎えたのだった。
◆
あの婚約破棄の後、ダーウィベルスの部族は即座に隣国に狙われた。
そしてあっという間に支配され。
多くの命が散り、何とか生き残った者たちも酷い扱いを受け、部族は皆隣国の奴隷となることとなってしまった。
……やはり必要だったのだ、私たちの関係が。
でも可哀想ではない。なぜならこちらが契約を破棄したわけではないから。必要だった関係を終わらせたのは向こうだ。だから、それによって彼らがどうなったとしても、我が国や私に非はない。もちろん、婚約破棄が部族の総意であったわけではないだろう。ただ、ある意味代表であった彼が関係を終わらせることを選んだのだから、そういう意味では自滅である。
ダーウィベルスは戦いの中で捕らえられ処刑された。
ミミは部族の者ではなかったがダーウィベルスと親しくしていたという理由で心ない扱いを受け最終的には落命させられてしまった。
……ああ、悲しいことだ、本当は避けられた悲劇だったのに。
けれどもそれが彼の選んだ道なら仕方ない。
すべてはダーウィベルスの選択の結果。
ゆえに他の誰のせいでもない。
不幸にも巻き込まれてしまった者たちが怨むべきは私たちではなくダーウィベルスその人だ。
◆
婚約破棄から数年が経ち、私は、貴族の男性と結婚した。
彼の趣味は釣り。珍しい趣味だったので最初は驚いたけれど、色々な話を聞いているうちに段々興味が湧いてきて。それについて話を聞いているうちに親しくなって、その流れで結ばれることとなった。
◆終わり◆




