拾ってもらった恩があるとはいえ、貴女がしたことは罪深すぎることなのですよ。
幼い頃、両親に捨てられた私は、宿屋を営む女性に拾われ育てられた。
だがそれが良かったのかどうかは分からない。
……いや、もちろん、死なずに済んだという意味では良かったのだろうけれども。
ただ、良かった、と心から思うことはできないまま育った。なぜなら女性は私をいつもこき使ってきていたから。彼女は私を人と認識していない。彼女の中では私は奴隷のような存在なのだと思われる。
「あんたはずっとここで働くのよ。分かってるわね? どこかへお嫁に行くなんて絶対に許さないから。分かっているのでしょうね? ね! ね!?」
「……はい」
「じゃあいいわ。さっさと仕事に入って。ほら早く! 遅い! あんたみたいなのは仕事できなきゃ価値ないんだからね! さっさと働け!」
私には明るい未来はない。
誰かと結ばれるなんてことは特に起こり得ない。
そう思っていたのだが……。
「メリッサさんのことを好きになりました。よければ僕と共に生きてくれませんか。貴女には一生辛い思いはさせません」
宿に何度か泊まりに来ていた青年ロロンに好意を持たれ。
「共に生きましょう、メリッサさん」
「……で、でも」
「何か問題があるのですか?」
「私は……結婚は、できません」
「なぜです?」
「したくない、ではなく、できない、なのです」
怪訝な顔をするロロン。
「……何か理由が?」
彼は真っ直ぐに心を向けてくれていたので。
「実は母が……あんたはずっとここで働く、と」
気づけば私は本当のことを口から出してしまっていた。
「支配されているということですか!?」
「……はい」
「それは……そうですか、しかし、そういうのは問題ですね。メリッサさんの人生はメリッサさんのものだというのに」
「拾ってもらった恩があるから私にはあれこれ言う権利はなくて……」
すると彼は「そういう問題じゃないですよ!」と調子を強める。
「僕から話をしますよ」
――その後、ロロンが宿屋の主の女性に話をつけてくれ、私は無事彼と共に歩めることとなった。
「メリッサ、裏切ったね」
「……裏切ったわけではありません」
「覚えてな! 絶対! 絶対だよ! あんただけは、絶対絶対絶対、ぜーったい! 許さないからね!」
宿を出る時、母的存在である彼女は何度も攻撃的な言葉を吐いていた。
「さようなら。……今までありがとうございました」
こうして、色々なことを乗り越えてロロンと共に生きることを選んだ私だったが――ある時、宿屋の主の女性が突如屋敷へ乗り込んできて、ロロンの命を奪った。
彼女が狙っていたのは私の命だった。
けれども咄嗟に彼が割って入って。
彼が間に入ってくれたことによって私は落命せずに済んだのだけれど、代わりに彼が命を失うこととなってしまった。
「そんな……こんな、ことって……どうして……」
女性はその場で警備の者に取り押さえられ、警察へ突き出された。
「酷い、わ……」
ロロンを失い絶望した私は、ある夜たまたま出会った謎の女神に願いを叶えてもらった。
どういう願いかというと『あの女性が一生牢屋で苦しみますように』といったもの。
――そう、これでもう、彼女には穏やかな未来はない。
いつまでも傷つけばいい。
どこまでも苦しめばいい。
それが、私の復讐。
◆終わり◆




