色々ありましたが、夫との関係は良好なので、これからも楽しくまったり穏やかに生きていきます!
ある晴れた日のこと。夫である三つ年上の彼ラヴェンスと庭でまったり過ごしていたところ、彼のほうから意外な誘いがあった。それはちょっとした遊びに関する誘いで。何かしらの意味がある誘いというわけでもなくて。ただ、こちらとしては別に断る理由もなかったので深く考えないままに頷いた。で、それによってスムーズにその遊びへと突入していく。
「じゃあ俺からスタートな! りんご」
「ご、ね」
「ああそうだ」
「ええと……では、ゴリラ、で」
「ゴリラ!」
「駄目だったかしら」
ラヴェンスはこちらへ視線を向けて「ゴリラ本物見たことある?」と尋ねてくる。私は控えめに首を横へ振って「ないわね」とだけ返した。その会話はそこで終わる。
「じゃ、俺だな。……落雷!」
「稲妻」
「松林!」
「しらみつぶし」
「また、し、じゃないかっ」
「別にルール違反じゃないでしょう?」
「まぁそうだけど、さ……シミ取り」
「リズム」
「無理矢理!」
「力士」
すると彼はまたこちらへ視線を向けてきて「力士本物見たことある?」と尋ねてきた。またそのパターンの質問かーい、と内心突っ込みつつも、落ち着きを保つよう意識して「ないわ」と答えた。そして「絵本でなら見たことあるけどね」と付け加えておいた。
「私語!」
「ごますり」
「リキッドタイプ!」
「ぷっくり」
「うわあ。また、り、かよ。ひっでぇ……」
「続けましょう」
「えええー……律動!」
「馬」
「漫才師!」
「しじみ」
「民主主義!」
「義母」
「ボート!」
「年女」
「なすび!」
「ええと、そうね……美人のお姉さま」
「マス!」
「すみれ」
するとラヴェンスはふっと笑みをこぼして「可愛いな、すみれ」と呟いた。
「何よ?」
「いやべつに」
「ええ……」
「悪い意味じゃないって」
「そう。なら良かったけれど。変だったらはっきり言ってちょうだい」
「変じゃない!」
そんな風に言葉を交わして、遊びへ戻る。
「レンガ、で!」
「ガイドブック」
「栗!」
「理不尽な責められ方」
「なんだそりゃ……じゃ、たぬき、にする」
「きびだんご」
ラヴェンスは「何だそれ!?」と驚いたような目をした。
私は「東国の伝説に出てくる魔法の食べ物よ」とだけ返しておいた。
きびだんごが出てくる東国の伝説はこの国ではあまり有名でないのでラヴェンスはきっと知らないだろう。
「語彙!」
「石橋」
「指揮者!」
「釈放」
「う、う、う……牛!」
「敷物」
「なら、野原! 野原! で!」
「楽する」
「ルルルと歌う!」
数年前、私は婚約者に突然婚約破棄されてショックを受け、寝込んでしまっていた。
そんな時励ましによく来てくれたのが当時近所の人だったラヴェンスだった。
その時まではそこまで親しくなかった。会えば挨拶をする程度で。嫌いではなかったけれど、好きとか何とかそういう話ですらなくて。当時の私にとって彼はただの知り合いでしかなかったのだ。
けれども、辛い時に支えてくれたことで、私たちの関係は大幅に変化した。
私たちはあっという間に距離を縮めて。
気づけばお互いを大切に想うようになっていた。
――そして今に至っている。
「何それ……まぁいいわ。う、ね。じゃあ……瓜で」
「り、多いな! ……陸地」
「知恵比べ」
「べっこう!」
「浮世絵」
「え、え、ええ……え、だよな……絵師!」
「四季」
「勤勉な人!」
「得意分野」
「休みたい!」
「印字」
「自分中心なやつ!」
「積み木」
「き、き、き……っ、貴公子!」
ラヴェンスと出会えたことは本当に嬉しいことだった。
「真珠」
「じゅ、か……呪文を唱える!」
「ルーツ」
「追伸も読んで!」
「デマ」
「ますのすし!」
「珍しい単語が出てきたわね……。じゃ、幸せ、で」
だから私はこれからも日々を大切にして生きていく。
「セミ!」
「魅惑」
「茎わかめ!」
「迷宮」
「虚ろな瞳!」
「密接な関わり」
「隣人が鬱陶しい!」
「今それ言う? で」
「うろつく!」
「食いしばり」
「また、り、かよー! 勘弁してくれよー!」
――そう、人生はまだ、終わりはしない。
この先の道は長く続いていくもの。
だから私は彼と手を取り合って歩んでゆく。
いつまでも穏やかに生きよう――そう思う。
◆終わり◆




