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さくっと読める? 異世界恋愛系短編集 5 (2025.1~)   作者: 四季


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何の生産性もないような穏やかな時間こそ、私が護るべきものです。~お互い苦労してきましたが今は共に幸せに暮らしています~

「しりとりしないカァ?」

「いいわよ」

「じゃあ、スタートしようゼェ!」


 私の夫は個性的な人。

 喋り方にもかなりクセがある。


 ただ、悪い人ではなくて、一緒にいるととても楽しい人だ。


「まーずーはー……小麦粉ォ!」

「コーラス」

「すみれェ!」

「レモンジュース」

「ま、また、す!? う、ううーん……好きィ!」

「騎士」

「真実ゥ!」

「積み木」

「き、きき、きっきききっきっきィ……黄色ォ!」


 かつて私たちはそれぞれ婚約破棄されることを経験した。

 それも極めて理不尽なものを。

 私は「パッとしない」という雑な理由で切り捨てられ、彼は「キモい」という心ない言葉で切り捨てられた。


 そんな私たちが今こうして共にあれているのは、きっと、神の優しさゆえなのだろう。


「ロバ」

「罰ゲームゥ!」

「無視」

「ええェ!? 冷たいワードチョイスゥ!? ……う、んしょ、じゃ……鹿ァ」

「カバ」

「また、ば、なのォ!? えーと……うーん、えーと、えーとえーとと、えっとととっとォ……バクゥ! 動物の、ネ!」


 だが、奇跡だろうが同情した神の優しさだろうがなんだっていい。


 なんせ今は幸せなのだ。

 それだけでいい。

 今の状況以上のことなんて何も望まない。


「草むら」

「ラクダァ!」

「だんごむし、で」

「指揮者ァ! 音楽の、ネ」

「シャベル」

「瑠璃色ォ」

「蝋燭」

「くきわかめェ!」


 彼が大事。

 日常も大事。

 だから私は今ここに在る幸せを護って生きてゆく。


「メジロ」

「ろー……ろ、ろー、ろ、ろろ……うーん、えとォ……老人会ィ!」

「インコ」

「鳥多いナァ!?」

「続けてちょうだい」

「……はい。で、では、ではではァ……コルクゥ!」

「組み体操」

「牛ィ」

「至近距離」

「りんごォ!」

「ごますり」

「いやいや、うっそォ、そんなワード来るゥ!? ……では、陸地ィ」


 こんな風によく分からないしりとりをする時間だって、私にとってはとても愛おしい時間だ。


「地域」

「菊ゥ」

「栗」

「理不尽な言葉ァ!」

「番組」

「ミミズゥ」

「ずぼら」

「えーっと、ら、ら、ららら……らー……乱暴者ォ!」


 第三者から見ればくだらない時間かもしれない。

 何も生まれはしないわけだし。


 けれど、私としては、無駄なことばかりしているとは思っていない。


 穏やかな時間。

 平凡な日常。

 大げさではないけれど存在する温かな愛。


 そういったものこそ、幸福のために護ってゆくべきものだろう。


「野原」

「またァ!? えええーっ。またなのォ!? また、ら、なのカァ!? ……楽な暮らしィ」

「しみじみ」

「民宿ゥ」

「暗闇」

「ミンチィ!」

「ちりめんじゃこ、で」

「恋人ォ! ハッピハッピハッピピハッピィ」

「そういうのいいから……じゃあ、得意分野、で」

「やまびこォ」

「小島」

「松林ィ」

「新規会員募集中」

「う、だナァ? うーん……移ろい、にするゥ!」

「いかだ」

「黙れェ」

「ええ?」

「い、いや、違うよォ。黙れ、って言葉を選んだんだヨォ」

「そういうことね」

「続けようヨォ!」

「ええ。では、歴史、で」


 婚約破棄を越えて、幸せにたどり着けた。


 こんなに嬉しいことはない。



◆終わり◆

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