「俺のこと好き?」婚約者がそんなことを尋ねてきたので……?
「俺のこと好き?」
婚約者である彼アヴェンダンが急に尋ねてきた。
なんてことのない平凡な昼下がりのことである。
「また急ですね」
「そりゃそうだ、今思いついて聞いたんだから」
「そうでしたか」
「で、どうなんだ? 俺のこと好き? 早く答えてくれよ」
なぜかやたらと圧をかけてくるので。
「好きですよ」
速やかに答えた。
すると彼は急に笑顔になって。
「あ、そ。じゃ、婚約は破棄するわ!」
そんなことを言ってきた。
えええー!? と思いつつも、冷静に対応する。
「俺のこと好きな女と結婚しても何の意味もないからさ、お前とはここまでにするわ」
「本気で言っているのですか?」
「ああ、もちろん。本気。俺くらいの男になってくるとさ、自分のこともう好きになってる女と結婚するとか面白くねえんだ」
「は、はぁ……」
「俺はもっと高みを目指す! もっともっとレベルの高い女と愛し合う!」
レベルの高い女、って……そういう言い方は少々失礼ではないだろうか、何だか上から目線な感じがするし。
「じゃあな、ばいばい」
◆
あの後少ししてアヴェンダンはこの世を去った。
というのも、やろうとしたことが上手くいかなくて絶望して自らこの世を去ることを選んだそうなのだ。
結婚相手が見つからなかった。
それが彼を絶望へと追い込んだ。
……ま、自業自得だろう。
彼は私を傷つけた。だから幸せになんてなれるはずがない。他人を傷つけて、反省もせず、それで自分だけ幸せになろうだなんておかしな話だ。
「ねえ、聞いた? アヴェンダンってやつ、消えたんですって」
「あのナンパ男でしょ」
「これで安心して街歩けるわ~。助かった~。大通り歩いてたら絶対声かけてくるからさぁ、ほんと鬱陶しかったんだ~」
アヴェンダンの街での評判は最悪だったようで、道行く女性たちは彼という存在がなくなったことに安堵していた。
他人にそこまで言われるなんてどんな迷惑なことをしたんだ……、と思いつつ、私は通行人のふりをして密かにその会話を聞いた。
――ちなみに私はというと。
アヴェンダンに切り捨てられた直後知り合った大規模な服の会社を営む男性と結婚し、幸せに暮らせている。
◆終わり◆




