納得できない言葉を言わせようとしてくる婚約者に怒られ急に婚約破棄されました……。
私エリスと二つ年上の彼ダーヴィヴィは婚約者同士。
今は彼の家へ行って二人でのんびりとした時間を過ごしている。
「なぁ、エリス、俺のこと好きって言ってくれねえか?」
「好き」
「ありがと! じゃあ次な。次は、なぁ……好きすぎて死にそう、って言ってくれよ」
「好きすぎて死にそう」
ダーヴィヴィは甘えたな男性なのでことあるごとにこういうことをしてくる。自分が言ってほしいことを強制的に言わせてくるのだ。ただ、内容自体は極めて平和的なもの。なので付き合いきれないことはない。言われた通りの言葉を繰り返しておけばいい、それだけだから難しいことではない。
「じゃあさ、一生貴方に尽くし貴方の言いなりになって生きます、って言ってくれねえか?」
「……何よそれ」
「いや、べつに、深い意味はないんだが」
「そう」
「言ってくれねえか?」
「もう一度言ってみてちょうだいよ」
「一生貴方に尽くし貴方の言いなりになって生きます、って言ってくれねえか?」
「あのね、それは……どういう意味なの? おかしいでしょう、そんなことを言わせるなんて」
するとダーヴィヴィは突如キレる。
「エリス! 何で言わないんだ! おかしいだろ!」
意味不明な怒り方をしてくる。
「おい! 言えよ! 他の言葉は言えただろ!? ならこれだって言えるはずだ! それなのになぜこれだけは言えない!? いや、違う、言わない!? なぜ! なぜなんだ! おかしすぎるだろう! 俺の頼みが聞けないのか!? そんなに俺のことが嫌いか!? それともなんだ、俺を軽んじているのか! 舐めているのか!? そうだな!? そういうことなんだな!? はっきり言ってみろ!! そんな女とは婚約破棄するぞ!? 婚約破棄だぞ!? ああ、もういい、分かったもういい、こんなくだらない婚約は破棄してやる! 破棄だ、破棄!」
ダーヴィヴィが殴ろうと拳を掲げた――刹那、ごごごと地鳴りのような音がして、突如裏山の一部が崩れてきた。
「う、うわああああああああ!?」
私は咄嗟に走った。
考えるより先に足が動いていた。
それによって土砂崩れから何とか逃れることができた。
奇跡的な幸運であった。
しかしそれとは対照的にダーヴィヴィは巻き込まれてしまいそのまま行方不明となってしまったのだった。
私はその後少しして知り合った資産家の男性と結婚。
今は彼と共に支え合って生きている。
互いを想い合い過ごすことができる関係というのは素敵なものだと思う。
◆終わり◆




