愛していた人とは別の人と婚約させられてしまったのですが……? ~夢を諦めません~
幼い頃から憧れていた人がいた。
ある時勇気を出して話しかけて、するとその人は温かく対応してくれて、一時はそんな彼と親しくなっていて。
できるなら彼と共に生きてゆきたいと願っていた。
けれども親をはじめとする周囲はそれを認めてはくれず。結局結婚相手は親が勝手に決めてきて。勝手に決められた相手は、昔憧れていた、今は大切な、その人ではなかった。
好きな人と一緒にいることすらできない人生に絶望しながらも、時は確かに刻んでゆく。
――だがそんな夏の日に。
「悪いが君との婚約は破棄とするよ」
「え……」
「僕はもう君とは生きてゆけない。なぜなら君が僕にメロメロでないからだ。分かるかな? 僕は君といてもちっとも楽しくない。それは、君が少しも媚を売ってくれないからなんだよ」
婚約者ルモツからそんなことを言われた。
「媚を売る、なんて、そんな言い方は……」
「うるさいな。黙ってよ。そもそも、女の分際で男である僕に口ごたえするなんておかしいんだよ」
「……ごめんなさい」
「じゃあ土下座してよ」
「すみません、それはできません」
「何で!? 反省していないってこと!? おかしいんだよ、全部」
――こうして私たち二人の関係は終わりを迎えた。
婚約破棄になってしまったことはショックではあった。ルモツに愛されなかったことより、親にどんな顔でこのことを伝えれば良いのか分からなくて。そのような厄介な状況に陥ってしまったこと、それがショックだったのだ。
ただ私には夢があった。
それは、いつかまたあの人に会って一緒に生きること。
何年も愛していた人に会いたい。
そしてまたいつかのように笑い合って素朴でも楽しい日常を手に入れたい。
それが私の生涯唯一の夢。
だから私は婚約破棄されても折れなかった。なぜって、婚約破棄は夢への第一歩だから。ルモツと離れればまた彼のもとへ行ける。上手くいくかは分からないけれど、取り敢えず、彼を訪ねることくらいはできるだろう。
「よし、頑張ろう」
婚約破棄された晩、一人そんなことを呟いて、こっそり実家を出た。
愛しい人――ロルフィオ・フォレ・カインズフォーミン――再び彼のもとへ行くために。
◆
あれから三年、実家と縁を切った私はロルフィオと結婚し、今は夫婦で楽しく暮らしている。
幼い頃憧れた彼がこんなに近くにいるなんて。
考えるだけで自然と涙が出そうだ。
ルモツとの出来事は一見不幸のようなものだったけれど、それがあったおかげでロルフィオとこうして生きられているのだから、ある意味すべて糧となるものだったのかもしれない。
色々あったがなんだかんだで幸せになれた。
一方ルモツはというと。
半年ほど前に家から徒歩二十分くらいのところにある海に近い川で釣りをしていたところ凄まじい勢いの水が急に流れてきてそれに巻き込まれてしまい行方不明となってしまったそうだ。
◆終わり◆




