婚約破棄され絶望したためこの世を去ろうとしたのですが、女神の力によって生き延びることとなりました。
婚約破棄された日の夜、絶望していた私は家の近くにあるとても背の高い木に登りそこから飛び降りた――しかしそんな私を待っていたのは望んでいる死ではなかった。
『気の毒でしたね』
意識を失っている間、夢をみた。
『あのような理不尽な目に遭わされた貴女に同情します』
美しい女神。
目の前に現れた神々しい女性。
『ですので、貴女に幸せを与えましょう……あちらの世界へ戻るのです、その時には貴女は幸せになっていることでしょう』
――そうして目を覚ました。
私はベッドの横たえられていた。
意識が戻ったことに気づいた母は駆け寄ってきて「大丈夫なの!?」と慌てた様子で尋ねてくる。取り敢えず小さく頷けば、安堵したように笑みを浮かべる母。かなり心配してくれていたようだ。
また、父や幼い頃からお世話になっている医師なども、私の帰還を喜んでくれた。
……ああそうか、私、なんだかんだで愛されているんだ。
そう感じるほどに。
死を選ぼうとしたことへの罪悪感が生まれる。
ただ、あの時の私はそれほどに追い込まれていたので、仕方ない面もあるのだ。
けれども今はもう違う。あの時とは。今は絶望していない。消えたいと思うこともない。気を取り直して生きてみようか、と、そう思えている。脳内に広がっていた黒いもやは晴れつつある。
「ああ良かった……生きていてくれて……」
「ごめん、母さん」
「いいの! 生きていてくれればそれで! いいのよ!」
もう一度生きてみよう。
「お前が死んでしまうと思ったら生きた心地がしなかった」
「ごめんなさい父さん心配させて」
「いやいやいいんだ、お前はちっとも悪くない。誰もそんな風には思っていないさ。わたしだってそうだ。お前は被害者なのだから、お前が謝る必要はない」
今度こそ、幸せになるために。
その後私は良き人と出会い結婚した。
おかげで幸せを掴むことができた。
二人の日々は始まったばかりだけれど、今は光ある未来を純粋に信じることができている。
ちなみに元婚約者の彼はというと、路上で痴漢行為を数回繰り返したために逮捕されてしまったそう。で、鞭打ち刑に処されたそうなのだが、鞭で打たれている最中に急に体調を崩し落命したそうだ。
◆終わり◆




