すべてに決着をつけることにしました。この手で、です。
数年前、散々浮気した挙句心ない言葉を浴びせて婚約破棄した、彼。
私は彼を許さない。
あれから何年も時が経ったけれど。
やはり許せないままだった。
その時はいつか許せるかもしれないと小さな希望を信じようとしていた。何事も時と共に流れ去り通り過ぎるもの。だから、時の流れが傷を癒してくれるかもしれない、と。そんな未来、そんな希望を、信じようとしていた。
――けれども傷は癒えなかった。
傷は深まるばかり。
闇は濃くなるばかり。
ならどうすれば良いというのか?
答えは一つだろう。
深まってゆくばかりの怨みを晴らしたいなら、彼に痛い目に遭ってもらうしかないのだ。
やったことはいつか返ってくると昔の人は言っていた。いや、誰もが。信じたいから信じているというのもあるだろうけれど、しかし、実際、大抵そういうものなのだろう。他人を不幸にしておいて自分が何の穢れもない幸せを手に入れるなんて、そんなことはほぼ不可能に近い。
とはいえ望む通りにすぐ天罰が下るわけではないので。
「お久しぶり」
私は私で決着をつけることにした。
ある晩、元婚約者である彼の背後から姿を現して、黒いフードで顔を隠しつつ声をかける。
「え? あ、えっと、何だい? 女性?」
彼はいきなりのことに戸惑っていた。
「貴方に頼みがあるのです」
振り上げるナイフ。
銀の刃が夜に光る。
――そして、目の前の男を貫いた。
「さようなら」
呟いて、その場から立ち去る。
なんせもうどうでもいいのだ。
冷たい地面に倒れている彼は抜け殻だから。
やるべきことはやり終えた。
◆終わり◆




