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さくっと読める? 異世界恋愛系短編集 5 (2025.1~)   作者: 四季


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過ぎ去ったことでも、ふと思い出すことはあるのです。~最期まで傍にいたかった~

 自宅の脇にある花壇に水をやりながら、過去を懐かしむ。


 かつて私には婚約者がいた。

 ここに植わっているのは彼が好きだった花だ。


 彼と私は周りからもよく話題にされるくらい気の合う仲で。ゆえにいつだって仲良しだったし、喧嘩することも滅多になかった。時に遭遇する困難も支え合って乗り越えてきた。


 きっと幸せな未来がやって来ると信じていた――。


 けれども彼は婚約を破棄した。

 それも結婚式の前日に。


 言われた時は意味が分からなくて、つい感情的になってしまって、彼を責めてしまった。でも彼は気まぐれで婚約破棄したわけではなかったのだ。


 ――彼は不治の病にかかっていた。


 今日明日に死ぬわけではないけれど、だからといって何十年も生きることはできない。

 彼が抱えていたのはそういう病で。

 共に未来へ歩いていった時、いずれ、手間や迷惑をかけることになる――だから彼は関係を終わらせようと考えた、ということだったのだ。


 それを知った私は何度も「それでもいい」と言ったし「それでもいいから傍にいたい」と訴えた。でも彼は頷かなかった。彼は少し寂しそうな目をしていたけれど、私が離れたくないと訴えるたびに「自分に縛られず生きてほしい」とそんな風なことだけを口にした。


 そうして私たちの婚約は破棄となり。


 それから一年ほどが経って、彼はこの世を去った。


 今なら少し分かる気がする。

 終わらせたのは彼なりの優しさであり思いやりでもあったのだと。


 ……けれども余計なお世話だった。


 そんな気遣いは要らなかった。

 ただ傍にいたかった。


 たとえ、ややこしいことになるとしても、どのみち彼と長くは生きてゆけないとしても。それでも、彼の命が尽きる日まで、彼の隣にいたかったのだ。寄り添い合って生きてゆきたかった。


 愛しているのだから、苦労なんて平気だったのに……。


 彼の死から幾年もの時が過ぎて、あの悲しみは、ほんの少しずつ薄れゆきつつある。

 けれども鮮明に残るものもあり。

 今でもふと彼のことを思い出しては複雑な気持ちを抱える。ふとした瞬間に当時の心境が蘇ってくる。


 ……私はただ、最期まで、彼の傍にいたかった。



◆終わり◆

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