不潔な婚約者から思わぬ形で解放されることとなり、今はとても嬉しいです。
私の婚約者デッデは不潔な男だ。
生まれて初めて見たと言っても過言ではないくらい汚い。
ただ、汚いだけで良い人なら、まだ救いはあるのだが……。
「おい!」
「……何ですか?」
彼の場合はただ不潔なだけではなくて。
「お前さぁ、もっと可愛くなれねぇの?」
性格も悪いのだ。
「だっせえなぁ。俺と結婚すんならさぁ、もっと可愛くしろよ。努力しろよ」
だから救いようがない。
「俺の隣に立つなら可愛い系美女じゃねぇとなぁ」
まさに今、この時も、鼻の穴から垂れてきたやや黄ばんだような鼻水を手の甲で拭っては服になすりつけている。
こんな人と一生を共にするなんて嫌すぎる……。
「努力しろよっ。な? 俺みたく完璧になるのは無理にしてもさ、ちょっとは頑張れよ。オケ?」
――だがその数日後奇跡が起きた。
その日の朝、いつも通り起床し洗顔も歯磨きもせずパンを食い散らかしていたデッデだったのだが、ミルクを飲もうとカップに腕を伸ばした瞬間気を失った。その場に倒れ込んだのだ。無残に飛び散るミルク。
そうして彼は亡くなった。
――それによって私は彼から解放されることとなった。
嬉しい! 嬉しすぎる! これでもう彼に絡まれることはない。そう思うだけで、胸の奥に、無限の希望が湧いてくる。瞳の奥に輝きが宿る。ずっと、彼と一緒にいると魂が死んでゆくようだった。でも、彼と離れられるなら、そんな苦しみにはおさらばできる。自由! 解放! この時をどれほど心待ちにしていたか!
他人の死を望むわけではないけれど。
これはもう、もう、最高すぎる――!!
◆終わり◆




