ああ、そうですか……貴方はもう私のことを欠片ほども大切に思ってくれていないのですね。
「なぁリリエッタ」
「何ですか?」
ある平凡な夏の日。
婚約者ウィアンと何となく一緒に過ごしていたところ、唐突に、何やら深刻な面持ちで言葉をかけられた。
「言いたいことがあるのだが……今いいだろうか?」
そう尋ねる彼の顔には暗雲が立ち込めているかのようだ。
「今、ですか? 大丈夫ですよ。何でしょうか」
そんな風に返すと。
「君との婚約だが、破棄とすることとした」
ウィアンはさらりとそんな言葉を告げてきた。
「え……」
思わずこぼれる情けない声。
想定外の展開にすぐには気の利いたことを返せない。
「聞こえなかったか? 婚約を破棄する、と言ったんだ」
「いえ……聞こえる、のは、聞こえましたけど……」
「ならばもう分かっただろう。そういうことだ。言葉そのままの意味だ。話についてこられていないような演技をするのはやめろ」
ウィアンはなぜか少し苛立っているようだった。
「え、演技なんて……そんなこと、していません」
「しているじゃないか!」
「……大声を出して圧をかけるのはやめてください、ウィアンさん」
「黙れ愚かなリリエッタ! 捨てられる女の分際で口ごたえするな!」
ああ、そうか……彼はもう私のことなど欠片ほども愛していないのか。
きっと、だからこそ、心ない言葉を発することができるのだろう。愛していない。大切でもない。彼にとっての私はそういう相手。だから何だって言えるのだ。遠慮とか、気遣いとか、そういうものを持たずに言葉を投げつけられるのだ。
私たちに共に行く未来はなかった。
◆
あの突然の婚約破棄から、今日でちょうど二年になる。
私は数日前結婚式を挙げた。
結婚相手は親の知り合いが紹介してくれた資産家の男性だ。
どんな時も思いやりがあって、それでいて常に可愛らしさや純粋さを持っている――そんな彼のことを私は愛している。
そうそう、そういえば、だが。
ウィアンはあの後別の女性と結婚したらしい。
しかし結婚生活は長続きしなかった。
というのも彼が結婚後間もなく不倫を繰り返すようになったそうなのだ。
それによってやがて奥さんに切り捨てられたのだそう。
まぁ、結婚していきなり不倫したうえ一度だけでもないとなると、捨てられるのは当たり前のことだろう……。
◆終わり◆




