婚約破棄された日の晩の不思議な出来事に戸惑っていたのですが……?
婚約破棄された日の晩、目の前に魔法使いだと話す美女が現れた。
彼女は「心ないことをした貴女の婚約者を地獄に堕としておきますね」とだけ言って消える。
――そして夜が明けた。
「でね、母さん、そんな変な夢みたんだ」
「そう……」
なんてことのない平凡な朝。
窓から射し込む光は穏やかなそのもの。
昨日の出来事なんてすべて最初からなかったかのようだ。
「不思議な人だったなぁ……なんていうか、凄く美人なんだけど、よく分からない感じで」
「夢でもみたのではない?」
「ううん。あの時は確かに意識があったから。夢じゃないと思う」
「けれど自覚なく睡眠に至っているということもあるでしょう?」
「そうだね。けど違うと思う。今回に関しては、ね。そうは言っても証拠はないし信じてもらえないだろうなとは思うけど……」
「疑っているわけではないのよ、だって貴女は娘だもの」
その日の昼下がり、昨日婚約破棄を言いわたしてきた彼が落命したという情報が耳に入ってきた。
彼は昨晩いきなり家へやって来た怪しい男性数名に連れ去られ行方不明になっていたそうで。夜が明けて捜索隊が山の方を見て回ったところ、亡骸となった彼が発見されたそうだ。その亡骸には少量の土がかけられていて、また、近くには一枚の紙があったそう。で、その紙には、『この男は利用価値が低いので返却する』と書かれていたのだとか。
正直意味がよく分からない。
ただ彼が連れ去られた先で殺められたということだけは確かな事実だろう。
もしかしたらあの謎の美女の力……?
だとしたら、やはり、あれは私の見間違いではなかったのかもしれない。
あの美女、魔法使いは、確かに存在したのだ。今までは私がおかしなものを見ただけかもしれなかったけれど、こうなってくると話は変わってくる。ようやく証拠となりそうなものを手に入れることができた。
◆
あの婚約破棄から数年が経ち、私は無事良き人と巡り会え結婚することもできた。
おかげで今は幸せに暮らしている。
あの時は一人の娘だった私も今は妻であり母である――人の人生とは常に移り行くものなのだなぁ、なんて、日々密かに思っている。
だが誰もがそうなのだろう。
永遠に今のままでいる人間は存在しない。
時は流れるし人は変わる。
◆終わり◆




