あなたが裏切ってくれたおかげで愛しい人と結ばれることができました。そういう意味では感謝しています。
祝福の鐘が鳴る。
青空を貫くような歓声と共に。
柔らかな日差しの下、愛しい人と隣り合い、未来を信じて微笑み合う。
……ああ、あなたがあの時裏切ってくれなければ、こんな日は訪れなかったのね。
わたしの人生においてかなりショックだった出来事。
それは数年前のことだけれど。
当時わたしには婚約者がいて、付き合いも長い相手だったから絆は確かなものだったし幸せな未来が待っていると信じていたのだけれど、結婚式が見えてきた頃にかなり酷い浮気をされていたことが判明してしまって。
それで婚約は壊れてしまった。
――と、そんな衝撃的な出来事があって、その時は毎日寝込むほど弱っていたのだけれど。
その直後に出会った男性とわたしは今日結ばれる。
そういう意味では彼に感謝。
なんせ彼が裏切ってくれなければ今隣にいる彼に出会うことはなかったのだから。
……ありがとね。
なんて、心の中だけで言ってみる。
負った傷は消えないけれど。
時の流れが少しは痛みを和らげてくれる。
だから大丈夫。
きっとこのまま進んでゆける。
ちなみに裏切り者の元婚約者はわたしと離れた数日後謎の死を遂げたらしい。というのも、その日もいつものように散歩に出掛けていたそうなのだが、なぜか帰らぬ人となってしまったそうなのだ。何があったのかは誰も知らないとのこと。
一見関係ありそうなわたしは無関係だが……もしかしたら他の誰かからも怨まれていたのだろうか?
謎は謎のまま、真実は誰の目にも触れず、その一見は闇に消えていったようだ。
◆終わり◆




