それはある雨の日のことでした。~すべて終わるかと思ったのですが~
ある雨の日、婚約者であった男性から関係の終わりを宣言された。
さっさと視界から消えろ、なんて言われて。私はショックやら何やらでもう何が何だか分からなくなってしまい、そのまま彼の前から走り去る。激しい雨の中を一人駆ける。頭頂部から足の先までびっしょり濡れて。それでも、雨に濡れる苦痛より急に切り捨てられた苦痛の方が大きくて。混乱したままの頭で、雨の中を懸命に走った。
――崖の近くで足を滑らせてしまう。
「あっ……」
気づいた時にはもう遅かった。
足の裏と地面が離れて。
身体が落ちてゆくのがスローモーションのように見える。
(そうか、私、ここで死ぬんだ)
なぜか冷静で。
そんなことを思いながら落ちてゆく。
――そして意識を失った。
結論から言おう。
私は崖近くに住んでいる男性に助けられて死なずに済んだ。
「びっくりしたよ~、まさか人が降ってくるなんてね~」
「すみません……助けていただいてしまい……」
助けてくれたその人はロックと名乗った。
「いやいや、いいんだよ~。人助けは大切なことだからね~。それに、人間はお互い様ってものだしね~」
彼は温厚で優しい人。
知り合いですらなかった私を助け、また、追い出すこともなく温かく接してくれる。
「しばらく休んでていいよ~」
「……ありがとうございます」
――あれから二年半。
私とロックは特別な二人になった。
結婚したのだ。
夫婦となった私たちは今もかつてロックが住んでいた家で暮らしている。
ロックと共に在れる日々はとても楽しい。そして幸せ。彼は私を大切にしてくれるから、私も彼を大切にしたくなる。お互いにそんな感じで。良い関係であると感じる。事実彼もそう言ってくれているし。勘違いではないはずだ。
「そういえば、前に言ってた男の人だけどさ~」
「元婚約者?」
「そうそう~」
「何か情報があった?」
「うん。なんかね~、その人、他の女性と婚約してたけど浮気したらしくって婚約者の女性に激怒されほうきで百発近く叩かれて亡くなってしまったみたいだよ~」
◆終わり◆




