意味不明な展開から婚約破棄されました。~彼らが信じたものは間違ったものだったようです~
「なぁ、エリーザさ、神の犬って知ってる?」
婚約者である彼アンドロがいきなりそんなことを質問してきた。
「神の犬? 何それ」
「もしかして知らないのか」
「ええ……そんな言葉初めて聞いたわ」
正直に答えただけなのだけれど。
「本当に!?」
青ざめるほどに驚かれてしまった。
「本気で言ってるのか!? 神の犬を知らない!? 知らないだって!? しかも知ろうともしていない!?」
「そんな言葉聞いたことがないわよ」
「お前、サイッテーだな! 神の犬に興味を持たないとか! アホにもほどがあるだろそんなのは! 酷すぎるだろ!」
しかもなぜか怒られた。
意味不明過ぎる……。
なぜ怒られなくてはならないのか……。
聞いたことのない言葉を聞かされ、知らないと正直に答えれば怒られる。どうしてそんな目に遭わされなくてはならないのか。悪いが私にはまったくもって理解ができない。知っていてほしいと思うなら説明すれば良いだけではないか。驚いて怒るだけで解決することなんて何もないのだから。説明する手間を省いて、敵を見るような目をされても、こちらはどうしようもない。
「エリーザがそんな女だとは思わなかった」
「え……」
「てことで、お前との婚約は破棄することにした」
「ええっ……!」
「もう決めた。神の犬を知らない女なんかと結婚できるわけがないだろ。当たり前だろ常識だろ。誰だってそう思うさ。正しいのは、正常なのは、間違いなくこっちだ」
――そしてその果てに。
「エリーザ、お前とは結婚できない。よって、婚約は破棄とする。また、縁も切る。二度と俺の前に現れるな」
ばっさりと切り捨てられてしまったのだった。
その時の冷ややかな目を私は一生忘れないだろう。
◆
婚約破棄から一年半。
神の犬という話が何だったのかようやく知ることができた。
今からさかのぼること二年、アンドロの親がとある怪しげな思想の集団に入ったそう。そしてその影響でアンドロ自身もそこへ加入したらしい。
その組織の中で偉大なる存在として扱われているのが神の犬という存在だそうだ。
代表の男性は「神の犬を知らぬ者は悪、神の犬を知ろうともしない者は悪魔」と常々語っているらしい。
それを聞いて、ああそういうことだったのか……、と納得した。
だから彼は私を嫌ったのか。
だから彼は私をあそこまで急激に敵視したのか。
すべての謎が解けた瞬間であった。
ちなみにアンドロとその両親はというと、先々月神の犬への供物に選ばれたそうだ。で、生きたままあの世へ送られることとなってしまったそう。つまり、避けられない死へと堕ちゆくこととなったのである。ただ、彼らは最期の日まで「神の犬のためなら何でもできる」と幸せそうだったのだとか。
◆
――後に例の組織の代表は逮捕された。
というのも、彼は、裏でいくつもの怪しい商売に手を染めていたのだ。
そこにはかなりの数の違法行為が含まれていたそうで、結果彼は犯罪者として捕まったのである。
組織は終わった。
神の犬なんて作り物でしかなかった。
アンドロらの死は無駄になった。
◆終わり◆




