不運に見舞われる体質の彼を支えるために婚約していたのですが……どうやら裏切られていたようなので、さよならします。
婚約者である彼ガーデム・ディフォーフォは幼い頃からギャグかというくらい不運に見舞われる体質の持ち主であった。
そんな彼は『幸運の乙女』という能力を持った私と共に在る時だけは災難に見舞われることなく穏やかに過ごせるのだ。
そこで、彼の親からの頼みもあり、私たちは結婚することとなった。
最初はガーデムも「嬉しいよ!」とか「ありがたいよ、本当に!」とか言ってくれていて、感謝の気持ちを細やかに伝えてくれていて。
だから彼のためになることができて良かったと思えたし、彼と共に生きてゆくことに何の躊躇いも迷いもなかった。
だがいつからか彼はそっけなくなった。
不安になったので「何か嫌なことしてしまった?」と尋ねたこともあったのだが、その時ですら彼は冷たく「べつに」と返してくるくらいのことしかしてくれなくて。無視よりかはまだ良いのだろうけれど。でも、それでも、不安であることに変わりはなかった。
――そしてついに知ってしまう。
ガーデムは女を作っていたのだ。
噂によれば酒場で出会ったそうなのだが。今はその女性に完全に心奪われてしまっていて、私のことなんてどうでもよくなってしまったようなのである。
浮気されてまで彼の人生を支えるつもりはない――なので私は、ある程度浮気の証拠を集めたうえで婚約を破棄することを告げた。
「何だよ! あんなのちょっとした遊びじゃないか! それを理由に婚約破棄? どんだけ面倒臭いんだよ!」
「浮気したうえ謝罪もしない人となんて生きていけないわ」
「そういう問題じゃないだろ! 俺にはお前が要るんだ、不幸にならないために。けど、俺だって遊びたい! あの女とは本気じゃないんだからべつにいいだろ!」
「不幸にならないために、それだけの理由で貴方の一生を支える気はないわ」
もう彼とは共には歩めない。
どうやったって無理なものは無理。
「裏切り者!」
「よくそんなことが言えるわね。失礼よ。とにかく、私はもう去るから」
「ふざけるなよ! 自己中女!」
「……自己中なのはそっちでしょう」
「はぁ? そんなわけないだろ! 俺は俺なりに不幸体質でも頑張って生きている! それなのにその俺を責めるのか? なんという悪女!」
こうして私たちの関係は終わった。
◆
あの後ガーデムは数多の災難に見舞われ、それを理由に女性にも捨てられて、結局彼は孤独に生きてゆくこととなったようだ。
そして女性と別れた数ヶ月後、自ら命を絶った。
……きっと孤独に耐えられなかったのだろう。
けれども可哀想とは欠片ほども思わない。何なら、自業自得、そう思うだけ。あんな風に身勝手なことをやり続けてきたのだ、彼は。その彼が痛い目に遭ったところでこちらからすれば何とも思わない。ざまぁ、くらいに思うことは多少あっても。可哀想とか気の毒にとかそんな思いはまったくもって湧き上がってこなかった。
一方私はというと、今は『幸運の乙女』の能力を活かしてボランティア活動に励んでいる。
主に、生まれつき辛い立場や状況にある人の支援をしている。
誰かのために力を使えること。そして感謝してもらえること。それはとても嬉しいことだ。私とて悪魔ではないので、罪なき者が不幸であり続けることを望んでいるわけではない。罪はないのに不幸な状況にある人をこの手で救えるなら、純粋に、それはとても嬉しいことだ。
◆終わり◆




