まさかの理由で婚約破棄されました……。〜二人のその後は真逆のものとなりましたね〜
婚約者エイトリヒと彼の家の庭でティータイムをしていたら、突然セミが飛んできた。
不規則な飛び方をするそれはなぜか私ではなくエイトリヒに襲いかかる。
私は虫はわりと平気なのだがそれとは対照的に大の虫嫌いであるエイトリヒ、よりによって彼が襲われるという不運。彼は混乱して手にしていたティーカップを落としてしまい、割ってしまった。
「うぎゃああああ!! 怖い、怖いよおおおお!! 助けてええええ!!」
エイトリヒがあまりにも大騒ぎするものだから、咄嗟に手を伸ばし、暴れているセミを掴む。
私としては彼を護ったつもりだった。
しかし意図が正しく伝わっておらず。
「お前、さぁ……手で掴むとかさ……さすがにきついって、女として」
引いたような顔をされてしまう。
「汚いって……」
なぜ? 私が悪いの? ただ彼を助けようとしただけなのに。良いことをしたつもりだったのに。それなのにどうして私がそんなことを言われなくてはならないの? きつい、とか。汚い、とか。そんなことを言われる筋合いはないはず。私は彼を助けただけ。彼を虫から護っただけ。それなのに汚いもの扱いされなくてはならないの? そんなのはおかしなことではないの?
「……あのさ」
「何?」
「セミまだ掴んでるのかよ。やめろよ。女らしくないだろ、そんなの」
エイトリヒは冷たい視線を向けてきている。
「待って。私はただ貴方を護ろうとしただけ。掴みたくて掴んだわけではないわ」
「はぁ!? 俺のため!? 押し付けんなよ!!」
「どうしてそんなことを言うの」
「どうしてもこうもないだろ! 虫を手掴みする女とか、汚いし、不愉快なんだよ!」
り、理不尽……。
「なら離せば良いということ?」
「おっ、おま……今そこで離すなよ!? また飛ぶだろ!! 馬鹿か!?」
「でも掴んでいるのは汚いのでしょう?」
「そうだけどさぁ! ちょっとは頭使えよ! また俺が襲われたらどうしてくれるんだ!」
もうなにがなんだか分からない。
今の彼は混乱していると思う。
だって言っていることすべてがずれていて矛盾しているのだもの。
「ま、いいや。婚約破棄するわ。それで全部なかったことな」
「え」
「なんて顔してるんだ?」
「婚約破棄って……またどうして……いきなり?」
セミから護ってあげた。
ただそれだけ。
なのにどうしていきなり婚約破棄なんて話が出てくるのか。
「いやだから婚約破棄」
「意味が分からないわ……」
「はぁ? 言語が理解できないほど低知能なのか?」
「そうじゃなくて!」
「なら何なんだよ」
「おかしいじゃない、いきなり婚約破棄だなんて」
しかしエイトリヒが考えを変えることはなく、結局そのまま本当に婚約破棄となったのだった。
ちなみに理由は、虫を手掴みするような汚い女は無理、という呆れるくらい馬鹿らしいものであった。
◆
あれから二年半。
あの時離れた私たちの未来は真逆のものとなった。
私は幸せになれた。
結婚相手を探す中で気の合う人と巡り会えたのだ。
話題が合い、価値観も近い。まるでずっと昔から互いを知っていたかのようで。何をするにも息がぴったり合うような、そんな青年で。
それゆえ、私たちはあっという間に結婚にまで至った。
一方エイトリヒはというと。
ある時、友人のいたずらで蜂の死骸風お菓子を口にしてしまい、本物だと勘違いして衝撃を受け失神して後ろへ倒れて頭を打ちそのまま落命したそうだ。
◆終わり◆




