散々いちゃもんをつけておいて私が成功した途端寄ってくるなんて……そのような人とは関わりません。
朝、早くに起きて、窓際に置いた鉢植えに水やりしていると。
「お前! また水やりしてるのか!」
突然背後の扉が開いて。
現れた婚約者がそんなことを大きな声で言い放ってきた。
私の婚約者、名はロスズトフというのだが、彼は私が植物を育てることが好きであることを良く思っていない。
何でも、彼の中では、植物好きの女というのはクセの強いあまり良い印象のない女だそうで。
それゆえ私が鉢植えを持っていることにも彼は悪い印象を持っている。そしてことあるごとに絡んでくるのだ。
「あ、はい」
「しつこい女だな! お前は! いい加減諦めろよ……いつになったら草を育てるのやめるんだ!」
「自室でなら許すと前に仰っていましたよね」
「あれは……言っただけだ! そうに決まってるだろう! 本当は嫌だけど渋々妥協したんだ! 仕方がないから!」
顔を赤くして怒り出すロスズトフ。
「でも、あの時は、目立たないところでであれば好きにしろと仰っていましたよね?」
「妥協してあげたんだ! 妥協してあげただけ! それだけだ! 当たり前だろう! 俺は優しいから、お前を否定しないであげただけだ!」
面倒臭いなぁ……、と思いつつ。
しかし完全にスルーすることもできないので、一応言葉は返しておく。
「私は言われた通りにしただけなのですが」
「なら今度も言われた通りにしろ! 草育てるのはやめろ! もうやめろ! 今すぐやめろ!」
「時が流れてから言うことを変えるのはやめてくれませんか?」
「妥協しきれなくなったんだ! もう無理! これ以上我慢できない!」
ロスズトフの怒りはさらに熱を帯び、そして。
「もういい! 分からないならもういい! お前との婚約なんざ、破棄だ!」
終わりへと続く。
「永遠にさよならだ!」
こうして私たちの関係は崩れ去ったのだった。
◆
あれから十年。
私は植物研究の道へと進み、とある不治の病を治す成分を発見し、それによって国王から表彰された。
そして大金持ちに。
想像できなかったことではあるけれど、自分の力でお金も地位も名誉も手に入れることができた。
有名になった途端、ロスズトフは私の前に現れた。
そして媚を売るような笑みを面にべたりと滲ませて「俺とさぁ、やり直さない?」とか「今なら可愛がってあげるから」とか言ってくる。
……もちろんお断りしたけれど。
当たり前だろう。
いつもいちゃもんをつけてきていたような人とやり直すなんてあり得ない。
◆終わり◆




