心ないことを言われ、婚約破棄され、傷ついて――しかし残念な結末を迎えたのは私ではなく彼でした。
「お前みたいな何の取り柄もない女は俺には相応しくない」
婚約者である彼モッツレスに珍しく急に呼び出されたと思ったら。
「よって、婚約は破棄とする」
告げられたのは関係の解消だった。
「俺と結婚するなら、俺の妻となるなら、誰もが称賛するような素晴らしい魅力をまとった最上級の女性でなくては」
「は、はぁ……」
「お前くらいのレベルの女が努力もせず俺の隣に立てると思うな。そんな風に思っているというのは愚かの極み。そして、そのこと自体が、お前が無能な馬鹿であるということを証明している。お前はどうかしている。女としても、人としても、な」
形だけとしても婚約者である人間に対してそのような心ない発言を平気でできる人の方がどうかしていると思うのだが……。
「ということなので、お前とはここまでだ」
「そうですか」
「今後一生お前と会うことはない。お前の顔を見るだけで俺の格まで下がるからな。お前はお前に合ったレベルの低級男と結婚でも何でもすればいい。口臭が酷いおじいさんでも探せばどうだ? ははは、ぴったり。お似合い」
――だが次の瞬間。
「ぎゃああああああ!!」
窓を突き破って室内へ飛び込んできた光の矢がモッツレスの胸に突き刺さる。
「ぁ……ぅ、ぁ……」
モッツレスはその場に倒れ込む。
――それは、彼の死の瞬間であった。
まさかの展開。想定していなかった流れ。私は思わず「い、意味が分からない……」と呟いてしまった。死者を前にして口にするべき言葉ではなかった、後から若干そう思いはしたけれど、それがその時の私の本心であったことは事実なので仕方がない。
「ま、こんなこともある、か。……帰ろっと」
こうして、彼が直前に発した『今後一生お前と会うことはない』という言葉は意外な形で現実のものとなったのだった。
◆
後に私は別の男性と結婚した。
今は幸せのただなかに在る。
心ない言葉を吐かれ傷ついていた私でも純粋な幸せを掴むことはできた。
結婚を決めた日、いや、その日よりずっと前から――その男性には、最も綺麗な形で、深く愛されている。
◆終わり◆




