私が北の町の出であることを馬鹿にしていた婚約者でしたが……? ~他人を貶めることしか楽しいことがないなんて可哀想な人ですね~
北の町の出である私は婚約者ルミネートにそのことを馬鹿にされている。
ただ、それでも、我慢してきた。何を言われても、傷つけられても、言い返すこともしないで。ただひらすらに。悲しい思いをしても悲しい顔はしないよう気をつけてきたし、泣きたくなるようなことを言われても彼の前でだけは泣かないよう努力してきたのだ。
すべては関係を順調であらせるためだった。
――けれどもそんな努力も無駄なもので。
「お前との婚約、破棄することにしたよ」
ある冬の日、ルミネートから告げられたのは、関係の終焉。
「え……」
「だってさぁ、お前、面白みねぇじゃん」
「そう、ですか」
「いっつも無表情できめぇんだよ。分かるか? 不快なんだよ、お前といると。お前さぁ、自覚ねぇかもしんねぇけどさ、ほーんとウゼェよ? 分かってんのか? ま、分かんねーだろぉな、お前の脳じゃ」
関係が終わるその直前ですら彼は心ない言葉を発していた。
「ま、てことだから、お前とは今日をもっておしまいな」
こうして私たちの関係は終わりを迎えたのだった。
◆
「ふーん、そうなんだ」
「ええ……。努力はしてきたつもりだったの。私なりに。でも婚約破棄になってしまったわ」
婚約破棄された日から数日が経った昼下がり、幼い頃からの親友である女性リリーニアが励ましに家へやって来てくれた。
「いいんじゃない?」
「え」
リリーニアは些細なことは気にしない性格だ。
良い意味でサバサバしている。
小さなことでは心折れない、そんな彼女に、私はこれまで幾度も救われてきた。
「だってさ、そーんなこと言うやつってどうかと思うよ。心ないことばっかり言ってきてたんでしょ」
「あ……う、うん、そうなの。北の町のことも悪く言われて……」
「サイッテーじゃん!!」
「……そうよね、それは私もそう思う」
そして今日も。
これまでと同じように彼女に支えられている。
「そんなやつ、こっちからお断りすればいーんだよ! 付き合ってやる必要ない! ってくらいだからさ、これは良い機会だったんだって。ね? これからきっと良いことたくさんあるからさっ」
彼女の言葉には魔法みたいな不思議な力がある。
「ありがとうリリーニア」
「これからちょくちょく来るよ! その方が気紛れるでしょ」
「いいの?」
「もっちろん!」
「嬉しい、ありがとう」
「親友としてとーぜんのことだよっ」
リリーニアと過ごしている間は、どんな闇も、この身にまとわりつくことはできない。
◆
あの後私はリリーニアと共に事業を始めた。
そしてそれが大当たり。
私たちはあっという間に多くの民から称賛されるような存在となった。
また、私たちの成功によって、北の町の評判も上がった。
今や北の町は皆の憧れの町。
都市部からは離れているけれどそのことを悪く言う者はほとんどいない。
ちなみにルミネートはというと、先日亡くなったそうだ。
旅先での体調不良で病院に行ったそうなのだが、そこの医者が怪しい医者で、おかしな薬を大量に処方されてしまったらしく――結果さらに体調を崩すこととなり、その後数日もかからず落命したらしい。
そんなことがあるのか……、と、恐ろしく思った。
だが同情はしない。
なぜなら彼は私を傷つけた人だから。
◆終わり◆




