誓った愛は永遠なのだと思っていました。~浮気する人とはやっていけません~
誓った愛は永遠なのだと思っていた、その日までは――。
なんてことのない平凡な休日。
昼下がりに婚約者ボルフの家へ遊びに行った。
すると何やら様子がおかしい。
「ねぇ、もっと……」
「もちろん……愛して、いるよ……」
ボルフの部屋の扉の向こうから聞こえてくるのは男女のとろけるような声。
扉越しなので大きな声として耳に届くことはない。が、小さいながらも確かに、この耳に入ってくる。そしてそれは、できるなら人生において一度も聞くことがないまま死んでゆきたい、そういう類のものである。
誰だってそうだろう?
婚約者が知らない女性といちゃついていると思われる声なんて、普通、誰も聞きたいとは思わないものだろう。
もしかしたら稀にはそういうのが好きという人もいるのかもしれないが。ただ基本的にはそんなものは聞きたくないに違いない。そして私もそうだ。甘ったるい声、吐息、そんなものは不快でしかない。
このまま帰ろうか? ……なんて思って。
でもこのまま見なかったことにはできない、という気持ちもあって。
心の中で複数の選択肢を考える自分が競り合う。
切なすぎる戦いだ。
彼がこんなことをしなければこんな風に思い悩む必要なんてなかったのに。
――そして、心を決める。
「ボルフ! いるー?」
私は堂々と扉を押し開けた。
「え」
するとそこにはやはり浮気している彼の姿があった。
薄着の金髪女性と抱き締め合っている。
「な、なぜ!?」
「……これは、一体、どういうことなの?」
もう分かっていた。だからそれほど驚きはしない。ただ、想像していたものが現実であったことを知り、そういう意味では非常に残念に思う。
「ちっ……違うんだ! 違う! 違う違う違う! これは浮気とかじゃない、誤解だよ!」
「私まだ何も言っていないわよ」
「あ」
「自ら浮気じゃないなんて言い出すなんて、完全に黒ね」
「あ、あばばば、あばばばば、ち、違う! もしそう思われてたらって思って! それで言っただけで、その、そういう、変な意味じゃない!」
ボルフは慌てているけれどもう遅い。
「呆れたわ」
静かに告げる。
「汚らわしい。……婚約は破棄します」
――それはすべてを終わらせる言葉だ。
でも、もういいの。
こんな人と生きてもきっと幸せにはなれない。
それならおしまいにしてしまう方がずっと有意義で効率的。
「違うんだ! 違うよ! 待って、違う! 誤解しないでってば! もう、どうして、急にそんな冗談……驚くからやめてよ!」
「冗談じゃないわよ」
「へ?」
「本気で言っているわ。婚約破棄する、って。……分かった?」
「う、うそ!? そんな、嘘だよね!?」
「嘘なんかじゃない。本気だから。貴方とはもうお別れよ」
さようなら、ボルフ。
◆
あの後、私への慰謝料を支払わなくてはならないこととなったボルフは、その件で親と揉めた。
で、ある晩父親と殴り合いの喧嘩にまで発展してしまって。
彼は父親を蹴ったが、直後に顔面を数回殴られたうえ後ろ向きに転倒させられるという反撃を受けた。
そして、その際に負った傷が原因となって、ボルフは落命することとなったのだった。
一方、あの時ボルフと一緒にいた浮気相手の女性はというと。ボルフの両親に捕まり、浮気に参加したことを一日十時間責められ続けることとなり、やがて精神が崩壊した。
――あれから時は流れて。
私はもうすぐ結婚する。
相手はやや年上の人だけれど悪い人ではないし威張るようなこともない人だ。
彼となら上手くやっていけると思う。
◆終わり◆




