大した覚悟もなく浮気するなんて愚かですね。~せめてお金で償ってくださいね~
「好きだよ、君のことが」
「ええ~? ロッツったら、何言ってるのよぉ~! 婚約者いるのに~!」
「婚約者がいるかどうかなんて関係ないだろ」
「あるわよ~! これであたしが絡まれたらどうしてくれるのよぉ」
婚約者である五つ年上の男性ロッツ・フィリッフが浮気していることが判明した。
それは非常に残念な出来事だった。
ある日の夕暮れ時に最も見たくない光景を見てしまったのだ。
ロッツは長い金髪が特徴的なお人形さんのような女性を自室へ連れ込み、どこまで本気かは分からないが愛を囁いていた。
「絡まれたらロッツのせいよぉ?」
「気にするなって。その時ははっきり言ってやる。婚約はあくまで形だけで、本当に好きなのはこの女性なんだ――ってな」
婚約者に本当に見られているとは気づいていないロッツは強気な発言を続けていた。
「んもぉ、ひっどぉ~い!」
「事実だから仕方ない」
「うそぉ、もぉ、酷すぎでしょぉ。ロッツの婚約者じゃなくて良かったぁ~」
「君が婚約者だったとしたら愛していたよ」
「別の女に手出してたんじゃないのぉ~」
「そんなことはない。素晴らしい女性であれば、魅力的な女性であれば、その人だけを愛するに決まってる」
好き放題言われているところを目にしてしまうとさすがに苛立ってしまう。
だが感情的になることに意味などないと分かっているのでその場で怒りを爆発させることはしなかった。
「こんにちは! ロッツさん!」
敢えて明るく振る舞い突撃する。
「……あれ? ええと、その女性は……もしかして浮気ですか?」
すると二人は青ざめた。
「ちょ、ちょっと……!」
「嘘だろ……!?」
二人は互いに視線だけを向け合って小声でそんな言葉を交わしている。
かなり焦っているようだ。
「ち、違うんだ! これは!」
「自室に女性を連れ込むなんて完全に浮気ですよね?」
「違う! 勘違いだ!」
「では他に何があるのでしょう?」
「いっ……いかがわしいことなんて、何も、何もしていないっ……! た、ただ、た、たたたっ……ただ、喋っていただけだ……!」
本当に何もないのなら焦っておかしなことを言う必要もないはずだろう。
今彼がこんなにもおかしな言動をしてしまっていることそのものが浮気していたという証拠である。
「お二人の恋路の邪魔をする気はありませんので、婚約破棄しますねっ」
これでもう彼とはおしまい。
だからこそ笑顔で言ってやる。
「さようなら!」
彼とはここまでだ。
◆
私は二人から慰謝料をもぎ取り新たな人生を歩み出した。
今はもう過去に縛られてはいない。
ここからまた始まってゆく物語に希望を抱いて生きている。
一方あの二人はというと、慰謝料関連の件で揉めたようで、あの後わりとすぐに破局したようだ。
彼らの愛は生温いものだった。
結局、大した覚悟もなかったようである。
◆終わり◆




