婚約者である彼はいつも私を見下していましたが……。〜幸せを掴むのはどちらでしょうね〜
婚約者である青年ミルクキウスはいつも私を見下していた。
街でたまたま遭遇すれば「相変わらずバカ面晒してんなぁ」などと失礼なことを言ってくる。用事で一緒に行動している時には何回も舌打ちしてくる、加えて、少しでも不快感を覚えると急に睨んでくる。
と、そんな感じで、彼はいつも婚約者であるとは到底思えないような心ない振る舞い方をしているのである。
そんな彼がある日突然自ら私の前へ現れた。
「急に来てしまって悪いな」
「あ、いえ」
形だけとはいえ謝ってくるなんて珍しいな、と思っていたら。
「今日は伝えたいことがあって来た」
「何でしょうか」
「お前との婚約だが、破棄とすることとした」
告げられたのは、関係の終焉。
「これまで付き合ってやっていたが、もう無理だ。俺はこれ以上お前のおもりはできない。よって、関係はここまでとする」
ミルクキウスははっきりと述べた。
「本気で……仰っているのですか?」
「もちろん」
「そうですか。分かりました。承知しました」
すると彼はぐっとこめかみに力を加える。
「おい、少しくらい残念そうにしろよ」
どうやら私の態度が気に食わなかったようである。
「お前な! 何余裕ぶった物言いしてんだよ! お前みたいな女なぁ、まともな男には相手にされねぇんだよ! 縋りつけよ! 俺に! 土下座して、謝って、許してくれと言えよ! 頼めよ本気で! 頼めよ! 地面に伏せて、なぁ! ほら、ほら、なぁ! 叫べよ!」
彼はただひたすらに攻撃的な言葉を吐き続けた。
それも一時間以上。
感情的になっている彼はもはや誰にも止められない状態となっていた。
そうして私たちの関わりは終わりを迎えたのだった。
◆
あの突然の婚約破棄から三年。
私は良き人と巡り会いその人と結婚することができた。
だから今はもう過去の残念だった出来事には縛られてはいない。
過去は過去。変えることはできないし、消すこともできない。ただ、それの闇に縛られ続けなくてはならないという決まりはなく、現在の中で生きている自分にとっては現在がすべてだ。過去は確かに糧となるのだが、いつまでも過去という鎖に繋がれていなくてはならないわけではないのである。
ちなみにミルクキウスはというと、あの後勝手に滅んだようだ。
何でもあの婚約破棄の直後に酒場で出会った女性に惚れ込んでしまったそうで。その女性に貢いでしまい。しかしまともに相手にはされず、結局利用されるだけ利用され逃げられたそう。しかも悪い噂を流されて。
それによって彼の評判は堕ちる限り堕ちて。
絶望し、自らの選択でこの世を去ることとなったようだ。
◆終わり◆




