キノコ好きだったために婚約破棄されました……。
「お前さ、キノコ好きだろ?」
婚約者である彼アンドロが唐突に尋ねてきた。
「ええ、好きよ」
「小さい頃から詳しかったもんなぁ」
「そうね」
「じゃあちょっと教えてほしいんだけど」
戸惑いつつ頷くと。
「これなんだけど」
彼は天使のような真っ白なキノコを取り出した。
「なんていうキノコか知ってる?」
「知っているわ」
「名前教えてほしいんだけど。あと食べられるかどうかも」
「そうね。名前は確か、マッシロエンゼールンタケよ。で、食べることはできるわ。でも生のまま食べるのはやめておいたほうが良いと思うわよ」
すると彼は軽やかに「ありがとう!」と礼を述べた。
そしてその数秒後。
何か決心したようにそっと頷いて。
「じゃ、これで、バイバイな」
そんなことを言ってきて。
「どういう意味?」
「お前との婚約は破棄する、ってこと」
「ええっ……」
「いやだってキノコ好きの女と結婚するとか嫌に決まってるし」
さらりと心ないことを述べてくる。
「キノコ好きの女とか色々おかしいし。どうかしてる。だからこれから先ずっと付き合っていくことはできない」
そんな感じで時は流れ、私たち二人の関係は終わりを迎えたのだった。
◆
アンドロはあの後毒のあるキノコを食べてしまったために亡くなったらしい。
なんでもその時の婚約者であった女性に「それ食べられるみたいよ~」と言われ騙されたそうで、まんまとはまってしまい、毒物を摂取することとなってしまったために命を落としたのだとか。
また、その女性は、最初からアンドロをはめる気でいたようだ。
というのも。
彼女の狙いはアンドロの資産だったようなのである。
そこに純粋な愛はなかった。
アンドロがどう思っていたのかは分からない。彼女の狙いを知っていたのか知らなかったのか。ただ、資産狙いの女性にしか親しくしてもらえないというのは、本当の意味で愛されてはいないということであって。それはとても寂しいことだろう。
ちなみに私はというと、婚約破棄後に出会った二つ年上の男性と親しくしていて、将来的には共に生きることも視野に入れて関わっている。
彼も同じ意向でいてくれているようなので、私たちは同じ方向を見つめられている。
それはとても幸福なことだと思う。
◆終わり◆




