婚約破棄された妹がすべてを姉である私のせいにしようとしてきます。あまりにも不愉快ですし、迷惑です。
婚約者に突然婚約破棄された妹がおかしな言動を繰り返している。
「お姉さまのせいよ! お姉さまのせいで婚約破棄されたの! 婚約破棄されたのはお姉さまのせいだわ! お姉さまがいたから! お姉さまが生きているから! だからあたし捨てられたの!」
愛していた男性に切り捨てられて、妹は壊れてしまった。
……ただし、元々彼女は厄介な人だった。
妹は昔からことあるごとに私にいちゃもんをつけてくるところがあって。少しでも都合の悪いことがあればすべてすべてを私のせいにしてくる。そして姉である私を責めてくるのだ。どんな無理矢理な理論であっても、彼女は無理矢理私を悪者にする。彼女の中では悪いことが起こればそのすべてが私のせいなのだ。滅茶苦茶な話だが、彼女からすれば、すべての悪の根源は姉なのである。
「ちょっと、落ち着いて」
「落ち着いていられるものですか! お姉さまのせいであたしは捨てられたの! それで黙ってなんていられないわ!」
「やめて。一旦冷静になって。殴ろうとしないで」
「お姉さまのせいよ! 全部そう! 何もかもがお姉さまのせいなの! お姉さまがいなければあたしが捨てられることはなかったのに!」
だから今日もこんな感じ。
「殴ってやる! 許さないわ! 絶対に許さない! あたしの不幸はすべてお姉さまのせいなんだもの! これまでだってそうだった!」
「何を根拠にそんなこと言うのよ」
「うるさい! 黙って! お姉さまには言い返す権利なんてない! あたしから幸せを奪っておいて、あたしを傷つけて、それで言い返そうだなんて……そんなの厚かましすぎるわ! 全部お姉さまのせいなのに!」
これまでにもこういう時はあった。
だからそこまで驚きはしない。
悲しいことだが、妹はそういう人なのだ。
そうやって受け入れて今日まで歩いてきた。
「お姉さまのせいであたしは捨てられたのよ!」
「落ち着いてって」
「うるさい! 黙れ! 取り敢えず謝りなさいよ、あたしに!」
「私、関係ないじゃない」
「関係あるわよ! というより、お姉さまのせいなのよ! お姉さまがいなければあたしは捨てられなかったのよ! だってこんな魅力的な女なのよ!? 捨てられるわけがないじゃない! ということはお姉さまのせいなのよ!! そうでしょ!? そうなのよ!! そうに決まってる!!」
婚約破棄されたことがショックだったというのは理解できる。
そういう意味では、気の毒に、とも思う。
けれども、婚約破棄された原因を無関係な人間に押し付けるという心の動きはまったくもって理解できないし、そんなことをされたら気の毒にと思う心は段々失われてゆく。
「殴らせて!!」
「お願い、落ち着いてちょうだい」
「せめて殴らせなさいよ! 全部お姉さまのせいなんだから! お姉さまのせいであたしは不幸になったんだから!」
「やめて!」
「やめないわよ! このまま黙ってお姉さまを許すつもりはないわ! 殴らせなさい、せめて! せめてそのくらいはさせて! 殴らせなさいよぉぉぉぉぉ!!」
――と、そのタイミングで、妹は足を滑らせた。
豪快に転倒。
凄まじい音がして。
そして妹は亡くなったのだった。
実妹があの世へ逝ってしまったという事実は悲しいことだけれど、でも、今は悲しいとは思えない。
なぜなら彼女は私にとって有害な人だったから。
これでもう責めらずに済む。
そう思えることが何よりも嬉しい。
◆終わり◆




