嵐の日に呼び出されたと思ったら婚約破棄を告げられました。それでも私は幸せになることを諦めません。
「お主との婚約なんじゃが、破棄とすることとしたのじゃ」
白いひげが特徴的な二十歳年上の婚約者アンドラス・ディフィオ・アンディトロロカがそんなことを言ってきたのは、ある嵐の日であった。
その日はかなり酷い風雨で。けれども呼び出されたから仕方なく彼の家まで行った。激しい雨に打たれながら、びしょ濡れになりながら。最初は断ろうとしていたのだけれど彼が重要な話だと言うので断り切れなくて。渋々彼の家まで頑張って行った。
で、そこで告げられたのが、婚約破棄の話だったのだ。
「わしとしてはもっと若くて瑞々しい乙女と結婚したいんじゃ。お主もそれなりには若いがわしの理想よりかは年を重ねておる。よって、お主はわしの理想から外れておるのじゃ。妥協しようかと思い今日まで歩んできたが、やはりそこだけは譲れんかった。よって、お主とはおしまいとする」
嵐の中、苦労してたどり着いたところで、こんなことを言われるなんて……。
さすがにがっかりしてしまった。
心が折れそうで。
溜め息が出そうで。
ただ、彼の中ではもう決まっていることのようなので、どうしようもなくて――だから私は彼の決定をただそのまま受け入れることしかできなかった。
◆
アンドラスはもうこの世にはいない。
というのも彼は私との婚約を破棄してから一ヶ月も経たないうちに急な発作で倒れそのまま亡くなったのだ。
突然気を失って。
突然あの世へ。
誰にも気づかれずこの世を去る。
彼の最期は驚くくらい呆気ない最期だったようだ。
一方私はというと。
婚約破棄された直後に運良く気が合う人と巡り会うことができ、今はその人との未来を考えているところだ。
「そうなんだ、それで……その人は亡くなってしまったんだね」
愛する人、大切な人、そういった人と歩いてゆけるなら――人生はきっと彩りのあるものとなるだろう。
「ええ」
「残念に思うかい?」
「いいえ、そうは思わないわ」
「あ、そうなんだ」
「だってね、私、急に婚約破棄されたこともあって……彼のことはもう好きじゃないの」
彼となら共に歩んでゆきたいと純粋にそう思える。
「そういえば言ってたね、急に婚約破棄されたって話」
「覚えていてくれたのね」
「印象的な話だったからさ。もちろん覚えているよ。それに、特別な人の話だしね」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
「また色々聞かせてね」
「そう思ってもらえることが嬉しいの、ありがとう、貴方には本当にいつも感謝しているわ」
◆終わり◆




