突然婚約破棄を告げてくるだけでも非常識なのに消えろ消えろと言ってくるなんて……救いようのない人ですね。
「お前なんてだいっきらいだ! よって、婚約は破棄とする!」
赤毛の婚約者エンデル・ディフォフォスはある日突然そんなことを言ってきた。
目を見開いて。
歯茎を剥き出しにして。
……まぁ、もう、とんでもなくみっともない顔をしている。
「大嫌いって……またどうしていきなりそんなことを」
「はぁ? いきなり? じゃねえよ! ずっと前からムカついてたんだよ! お前には!」
「取り敢えず、一旦落ち着いてください」
「落ち着け? はあああ!? 無理に決まってんだろ! これまでずーっと我慢してきたんだっての! もう我慢できねえよ! 落ち着くとか無理っ!!」
その時のエンデルはかなり感情的になっていた。
かなり悪い意味で。
なのでその時の彼は冷静に会話ができる状態ではなかった。
「と! に! か! く! お前はさっさと消えろや!」
「話をすることはできない、ということですね」
「消ぃえろ! 消えろっ! 消ぃーえろって! 消えーろって! ほら、早く消えてくれはよ消えろ! って! 消えろ消えろやっ、俺の前かーらー、消ぃえろや! ほら! さっさと消えろや消えろって! はよ!」
「……分かりました、もう結構です」
「消ぃえろ! 消えろっ! 消ぃーえろって! 早くどっか行けやはよ消えろ! ほら! さっさと消えろや、消えろって! 俺ぇの視界に、もうはーいるな! 消えろや消えろ! 消えろって!」
エンデルは正常ではなかった。
◆
婚約破棄から二週間、エンデルはうっかり毒キノコを食べてしまい亡くなった。
でも私には関係ない。
なぜならもう他人だから。
ただ、彼がそのような亡くなり方をするとは思っていなかったので、話を聞いた時には驚きはした。
けれど可哀想とは思わない。
エンデルは良い人ではない。少なくとも私にとっては。あんなにも消えろ消えろと言ってきたような人だ、善良な人のわけがない。それに、そもそも。ある程度まともな人間であれば、他人に対して消えろなんて言いはしないだろう。思ったとしても、だ。もし思ったとしても口から出すことはしない、というのが、まともな人間の行動だろう。
◆終わり◆




