見ていて楽しい気持ちになれない、なんて言われて婚約破棄されました。
なんてことのない平凡なある晴れの日、婚約者ザルクベーグルが私の家へやって来たと思ったら――さらりと婚約の破棄を宣言してきた。
「君はさ、見ていて楽しい気持ちになれない。……だからもうおしまいにする。さようなら、永遠に」
ザルクベーグルは静かな面持ちでそれだけ言うと、一度だけ冷ややかな視線をこちらへ向け、それから速やかに去っていった。
その場に残されたのは私一人。
何も言い返せないまま、静寂の海に落とされる。
「ええ……何これ」
思わず呟いた。
誰もいなくなった自分の家で。
◆
数日後、ザルクベーグルの訃報が届いた。
彼は落とし穴にはまって五メートルほど下まで一気に転落しそのままこの世を去ってしまったそうだ。
しかもその落とし穴が近所の子どもたちが遊びで掘っていたものだというから驚きである。子どもの力でそこまで深い穴を作ることができるのか、と。もう、それはもう、かなりの衝撃を受けた。何ならザルクベーグルが亡くなったということよりもそちらの方が衝撃であったくらいだ。
彼は見ていて楽しい気持ちになれないからと私を切り捨てたけれど、そんなことをしたところで何の意味もなかった――彼は結局、幸せは掴めなかった。
彼が幸せになれないのは私のせいではなかったのだろう。
◆
「どうか、これからもよろしく」
「こちらこそ」
快晴の今日。
私は愛する人と結ばれる。
ザルクベーグルと共に生きてゆく道は途絶えてしまったけれど、それとは別の道で幸せになれる道を見つけることができた――それはとても幸運なこと。
「「いつまでも、末永く……よろしくお願いします」」
私たちは今どこまでも純粋な瞳で互いを見つめ合っている。
その視線の先にあるのは、愛する人、大切な人なのだけれど。でもそれだけではない。瞳に映るのは、相手の姿だけではなくて。そこには、二人共に行く未来、希望ある明日も確かに映り込んでいる。
◆終わり◆




