さらっと婚約破棄を告げられました。理解できません、もう、本当に。どうやっても理解不能なのです。
「あのさ、ちょっといい?」
「ええ」
「じゃあ言わせてもらうけどさ」
「何かしら」
婚約者ダノーヌが珍しく自分から喋りかけてきたと思ったら。
「俺さ、好きな人できちまったからさ、お前との婚約は破棄するわ」
そんなことを言われてしまった。
あまりにも突然のことで――。
ただ戸惑う。
ただ言葉を失う。
時が止まったかのように感じられる。
「ごめんな、急で」
「ちょ……ちょっと、待ってちょうだい。いきなり過ぎるわ。あまりにも……」
「何を言われても婚約破棄はもう決定してることだから」
いきなり婚約破棄だなんて常識的に考えて到底受け入れられないことだ。
……いや、厳密には、信じられないこと、かもしれない。
なんにせよこんな身勝手なことをするなんて最低。そして理解不能だ。彼の心、彼の思考、どちらもまったくもって理解できない。本当に、もう、理解できないという言葉しか脳内に湧き上がってこないのだ。
「そういう問題じゃないでしょう!?」
「うるさいなぁ、黙れよ」
「だって意味が分からないんだもの。いきなり婚約破棄って……それは何? 到底理解できないわ」
取り敢えず言えることは言ってみたけれど、その意味が伝わることはなく。
「しつこい! 鬱陶しい! もういい、喋りたくない!」
ダノーヌは平然と心ない言葉を吐き出す。
「二度と俺の前に現れるな!」
――と、そんな感じで、私たちの関係は終わったのだった。
◆
あれから数年。
突然別々の道を行くこととなった私たちのその後は真逆のようなものとなった。
私はあの後少しして行きつけの喫茶店にて良き人と巡り会うことができ、その人と愛を深め、やがて結婚するに至った。
心の底から愛せる人との日々は幸福そのもの。
愛し、愛され――そうやってこれからも歩んでゆきたい。
一方ダノーヌはというと、あの時言っていた好きな人には声をかけた瞬間拒否されてしまったそうだ。で、それがトラウマになってしまったらしくて。以降、彼は、女性に話しかけることができなくなってしまったそうだ。
女性を目にするだけでめまいがしてくる。
女性が近くを通るだけで吐き気がしてくる。
そして、声をかけられた時には、急に失神してしまったこともあるのだとか。
……ゆえに、彼はもう良き結婚相手を見つけることはできないだろう。
そもそも女性と関わることが不可能なのだ。
ただの知り合い以上の関係になんてなれるはずもない。
◆終わり◆




