急に呼び出されて少し戸惑っていたのですが、その先にはもっと戸惑うような展開が待っていました。
「急に呼び出してごめんな」
「いえ、大丈夫です。それで用事とは? 何でしょう」
婚約者である彼リッティッツィロに話があるからと唐突に呼び出され、戸惑っていたところ。
「君との婚約なんだけどさ、破棄することにしたから」
いきなりそんなことを言われてしまう。
まさかの展開。
強烈な一撃。
欠片ほども想定していなかった言葉を投げられて思考が停止してしまう。
「え……」
発せたのはただ一文字、それだけ。
「急に伝えることになったことは申し訳ないと思っているよ。でも、僕は君とは生きないことにしたんだ。なぜなら、君よりも素晴らしい女性に出会ったから。ただそれだけ。もうとにかくそれだけ、分かりやすい理由だよ」
リッティッツィロは柔らかな笑みを浮かべながら言葉を紡いでいた。
「じゃあね。今までありがとう。さよなら」
手にしていると思っていたものは容易く失われてしまった。
◆
あの後リッティッツィロは女性に騙されて全財産を失うこととなった。
今や彼は一文無し。
当然かつてのような生活はできない状態だし、何なら貧しいなんてものでないくらいの酷い貧困に見舞われて。
……ま、でも、彼がどうなろうが私には関係ない。
彼は私を捨てた。
だから私も彼への情は捨てる。
……ただそれだけのこと。
ちなみに私はというと、今は充実した日々を楽しめている。
良い友人、良い仕事、良い家族――幸い私はそういったものに恵まれているから、毎日はとても楽しい。
◆終わり◆




