婚約破棄を告げてきた彼は調子に乗って変な踊りをしていたのですが……? ~挑発的な動きなんて無意味なことをするから罰が下ったのでしょうね~
「お主との婚約は破棄とすることにしたぞよ」
婚約者アッドネルス・フォフスは白いあごひげを触りながら宣言してきた。
「前から思っておったことだが、お主はわしの理想の乙女ではない。特にその顔面がな。わしが好きなのはもっと可憐な天使ちゃん風女神のような乙女、ゆえにお主には魅力は感じぬ。一切な」
彼は淡々と言葉を並べ、それから。
「おーぬし、なーんて、みりょくなしっ、はい! おーぬし、なーんて、かわいくないっ、はぁ! けっこんしたけりゃもーっとみりょくてきーになれ! はい! おーぬし、なーんて、げのげのげ、はい! おーぬし、みたいな、おんなはあいされないっ、ふぅ!」
肩と腰をそれぞれ左右交互にスライドさせるような踊りをし始める。
あまりにも癖の強い踊りを見せつけられて、戸惑い、言葉を失ってしまった。
「とにかく婚約は破棄。ゆえに二度とわしの前に現れるな。分かったのぉ?」
アッドネルスはそれからも先ほどの癖の強い踊りを続けていたのだが――突如ぐきっと音がしたと思ったらその場に倒れて動かなくなった。
「ぃ、ぁ、いっ……痛い……腰をやって、しま、った……」
その日を境にアッドネルスは自立した生活ができなくなってしまったのだが、私はその時点で既に婚約破棄されていたので無関係。
危うくお世話をさせられるところだった……。
一生介護させられるかもしれなかったと思うと恐ろしい……。
アッドネルスは痛い目に遭ったことだし、おかげで気分的にすっきりできたので彼のことはもうどうでもいい。
私は私の道を歩き出そう。
それが一番。
それが最も有益な選択。
過去には縛られない。
過去ばかりへ目を向けはしない。
生きてさえいれば、きっと、この先良いこともあるだろう。
だから希望を信じて進む。
◆終わり◆




