いきなり婚約破棄してきた彼は、後に違法なものの所持によって逮捕されてしまったようです。
「おはよう、リーナ」
「あ、おはよう~」
ある朝、婚約者である彼ロギッヂに町で出会ったので挨拶したところ、渋柿でも食べたかのような顔をされた。
ん? どういう顔? ――と、内心首を傾げていたら。
「やっぱお前との婚約は破棄するわ」
いきなりそんな言葉を放たれる。
「え……」
「だ、か、ら、婚約破棄」
「何それ!? ……どういうことよ」
「どういうことも何も。お前と生きるのは嫌だって思ったんだ。それで決意した、そういうことだよ。ほーんとそのままの意味。呆れるくらい簡単な話」
敢えて意地悪な言い方をするロギッヂを見ていたら胸の内にじわりじわりと黒いものが滲み出て広がってくる。凄く気持ち悪い感覚。きっとこれが不快感というものなのだろう。しかも、その黒いものの広がりは自分の意思では止められないものだから、これまたかなり厄介だ。
「とにかく婚約破棄だから! リーナ、お前とはもう会わない!」
こうして私たちの関係は終わった。
◆
あれから数年。
私は親の仕事関連の知り合いの紹介で出会った男性と結婚し、今はその男性と共に生きている。
彼は清らかで優しい人。そして常に穏やかさと寛容さを持っている人。また、妻となった私のことを、どんな時も深く愛してくれる。朝も昼も夜も、彼は柔らかな雰囲気で包み込むように愛してくれている。
そんな彼と一緒だからこそ、私は幸せに生きることができている。
一方、ロギッヂはというと。
彼はあの後惚れた女性から頼まれて禁止薬物を購入、そしてそれを所持していたところを警察に取り調べされ、禁止薬物の所持という罪により逮捕されたそうだ。
この先、彼が一般的な世の中に出られることは、もう恐らくないだろう。
残念だけれど、彼の人生は終わったも同然。この国において禁止薬物の所持というのはそれほどの罪なのだ。さすがに一発で死刑にはならないだろうが、かといって普通に生きることはできない。
◆終わり◆




