他者を傷つけるような生き方をしていればいつかこういうことになるのだ、と、改めて学んだ気がしました。
「お前との婚約だが、破棄とすることにした」
十歳年上の婚約者エンデルリバーグがそんなことを告げてきたのはある日突然のことであった。
「え……それは、また、急ですね」
「だが本気だ」
「そうですか……しかし、何かあったわけでもないですよね、なのにどうして」
するとエンデルリバーグは勝ち誇ったように鼻の穴を広げる。
「お前が俺に相応しい女性でないからだ!」
……なんという主観的な答え。
驚くと共に呆れてしまった。
あまりにも根拠なしかつ身勝手で。
「相応しい、ですか」
「ああそうだ! 俺に相応しい女性はもっと美しく可憐で心が広くかつ少しばかり恥ずかしがり屋さんといったような女性だ」
「そうですか」
「お前の場合、一つも当たっていないだろう?」
言いながらエンデルリバーグは鼻の穴を開いたり閉じたりしていた。
「まず美しさが足りない。お前の顔面偏差値は良く言っても中の上程度、俺に相応しいと言えるような美しさではない。また、可憐さも足りない。俺に相応しいくらい可憐な女性というのは、小さくても人々を魅了する花のような存在だ。お前にはそういう要素が欠片ほどもない」
なぜ今さらそんなことを言われなくてはならないのか。
見た目や雰囲気なんて短期間で変わるものではないのだから、婚約する前に理想に当てはまっているかくらい判別できただろうに。
それが彼にとって重要な点であるならなおさら。
彼が何よりも結婚相手に求めるものがそれなのなら、譲れない点について深く考えてから婚約するというのが真っ当な思考と行動だろう。
「しかもお前は心が狭い」
「と言いますと?」
「お前は俺がちょっと冗談を言っただけで真剣に受け止めて怒るだろう」
「……貴方の冗談は冗談とは思えないものなので、いつも」
「俺が冗談だと言えば冗談だ!!」
「そういう問題ではないと思います」
「ほら! そういうところだぞ! お前の心の狭いところは!」
まず年下女に寛容さを求めるなよと思うのだが……、まぁ取り敢えずそれは脇に置いておくとしても、彼が冗談だと主張する冗談はいつも人を否定し傷つけるようなものだ。
そんなことを言われて我慢できる人間なんてほとんどいないだろう。
「だからお前はくだらない人間なんだ。もう完全に嫌いになっ――」
エンデルリバーグがそこまで言った、刹那。
「ぇ」
突如窓が割れた。
粉々になった硝子が視界を舞う。
「ぅ、そ、ぎゃああああああ!!」
窓を割って室内に入ってきたのは蝙蝠に似た姿をした魔物の群れ。
「や、や、やめて! やめっ、や、やややっ、やめ……やめてええええええ! 襲わないでええええええ! 虐めないでえええええええ! や、やっ、やや、やっ……やだよおおおおおおお! うわあああん! やだああああああああ!」
魔物に取り囲まれるエンデルリバーグ。
「うわああああん! 嫌だあああ! 怖い、こ、ここっ、怖いよおおおおおお! 虐めるのやめてえええええ! 嫌だあああああ! きっ、き、ききっ、汚い! 汚いし! 汁ついたしっ……うわあああああ! うわああああああん!」
こうしてエンデルリバーグは私の目の前で魔物によって命を奪われたのだった。
他者を傷つけるような生き方をしていればいつかこういうことになるのだ、と、改めて学んだ気がした。
◆
幾つもの季節が過ぎ去って。
穏やかな春がやって来た今日。
私は大切な人と結婚式を挙げる。
ここは新しい始まり。
この先にもきっと様々な出来事があるだろう。私を。彼を。いろんな出来事が待っているだろう。嬉しいことや楽しいことは多くあるだろう。けれど、一方で、時には逆のようなこともあるかもしれない。
でもきっと大丈夫。
今はそう思える。
彼と一緒にいられるならどんなことでも乗り越えられる。
◆終わり◆




