酷いことを言って他者を傷つけるような人と一緒にいたくはありません。なぜなら、そういう人と一緒にいても幸せにはなれないからです。
「お前なんてくだらねえ女だ。可愛さもまぁまぁだし、面白いわけでもないし、ほーんとくだらねえ。……てことで、婚約は破棄な!」
三つ年上の婚約者アイルトンが重大なことを告げてきたのは、なんてことのない平凡な春の日だった。
「本気……なの?」
「あーあーそうだよ、本気、本気そのもの! だーってさ、お前、クズじゃん?」
「そんな。何よ、その言い方。あまりにも酷いわ」
「うるせぇなぁ。黙ってろや。そ! れ! に! 事実だろーが!! ほんとのこと言われてんだからよぉ、黙って受け入れろや! ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ!」
アイルトンが私のことをさほど愛していないことは知っていた。けれども、まさかここまで嫌われていたとは。さすがにそこまでだとは知らなかった。こんな心ない言葉を吐かれるほどだとは。私は彼の中でそんなにも価値のない女だったのか、気づいてしまって、そのせいで胸の内にじんわりと広がってゆく重苦しい痛み。ショックを受けた、という表現だけでは足りないような、そんな感覚。
「分かったら、さっさと消えろや」
こうして私たちの関係は終わったのだが――後日驚くべき話を耳にした。
というのも、アイルトンは隣の家の怪しいおじさんに誘拐され山小屋に監禁されたそうなのだ。しかも、そこで花火を身体に押し付けられ続け、段々正気を失って。そんな時に怪しいおじさんから「自ら死を選ぶか、ここで一生嫌がらせされるか、どっちがいい?」と尋ねられ、自ら死を選ぶほうを選択したらしく。結果、怪しいおじさんの目の前で自らこの世を去ることを選ばなくてはならないこととなってしまったそうだ。
……つまり、彼は落命したのである。
ちなみに私はというと。
あの後姉の紹介で知り合った心優しい男性と親しくなり結婚することが決まっている。
今は幸せを感じつつ過ごせる日々。
それは、あのまま何となくずるずるとアイルトンと一緒にいては手に入らなかったものだろう。
実際にどうなったかは分からないけれど。
でも、彼とでは、きっとこんな幸せな今日には至れなかったと思う。
◆終わり◆




