平凡な秋の午後、婚約者が身勝手な理由で婚約破棄してきました。~幸せになれるのはどちらでしょうね? 神様はきちんと見ています~
「お前との婚約、破棄とする!」
婚約者ツルツリーがそんな宣言をしてきたのはなんてことのない平凡な秋の午後であった。
「え……なぜ急に、そのようなことを?」
「婚約破棄するって言ってんだろ!」
「いえ。そうではなく、です。なぜそのようなことを言い出したのか、という質問をしているのです」
いきなりのことに戸惑いつつも尋ねてみるけれど。
「婚約破棄の理由なら簡単、お前という人間に飽きたからだ!」
そんな雑な答えしか貰えなかった。
飽きたから、なんていう理由で婚約破棄するなんて。お気に入りのおもちゃが次々変わる質の子どもみたい。婚約、結婚、そういったものの捉え方があまりにも軽すぎる。それらは人生において非常に重要なことだというのに。
「そもそもお前みたいな地味な女は俺に相応しくないんだって。そのくらい言われなくても理解しろよ。その頭蓋骨の中は空っぽか? そうじゃないだろ? なら一から十まで言われなくても理解しろって」
その日の話はそれで終わった。
翌日、ツルツリーの父親がギャンブルで大負けし、崖から身を投げてこの世を去った。
その出来事にショックを受けた父大好きっ子だった妹は、意味不明な言葉を叫びながら一時間以上家の前を走り回り、その果てにキッチンから持ってきた包丁で自分の身を傷つけて病院へ搬送された。
妹の奇行の一部始終を近くで見ていた姉は酷い吐き気に襲われベッドから起き上がれなくなってしまう。
また、娘たちの心が壊れる生々しい様を目にした母親は、夫を怨むと同時に非常に攻撃的な精神状態になってしまった。そんな状態で家の前の道ですれ違った人にいちゃもんを付けたことから大喧嘩に発展。喧嘩相手のおじさんに危険度の高い滅茶苦茶な投げ技を五十回連続でかけられたことで重傷となり、そのまま落命してしまった。
多くの不幸に見舞われたツルツリーは現在毎日一日中しくしく泣いているそうだ。
一方私はというと、今は、昔から好きだった絵を描くことに熱中している。
過去、一度は離れた趣味。しかし今再びそれに触れることができていて。そんな日々はとても充実している。やりたいことをやりたいだけできる日々は幸福感に満ちているのだ。
◆終わり◆




