婚約破棄、そして、それから三年。〜今は忙しいですが「充実している」と迷いなく言えます〜
私には少し前まで婚約者がいた。
名はカーザース・ティフォ・ルックトルースという。
うねった赤毛が特徴的な彼のことを私は嫌ってはいなかった。むしろ、その温かみのある雰囲気が気に入っているくらいで。それゆえ、彼となら良い未来を掴めると信じていた。
――だがそれは間違いだった。
ある満月の夜、カーザースが私の知らない女性を連れて歩いているところを目撃してしまったのだ。しかもただ歩いているだけではなくて。腕組みをして、いちゃつきながら、いかがわしい建物の中へと入っていったのだ。
それによってすべてが壊れた。
私の心、そこにあるもの、何もかもすべてが。
それから少しして、彼にそのことについて話を振ったのだが、すると途端に激怒されてしまい――なぜか私のほうが悪いかのようなことを言われ、婚約破棄宣言までされてしまう。
「お前なんて消えろ! 婚約破棄だ! そんな生意気なことを言う女には存在価値がない……だから! 一生、俺の前に現れるな!」
彼は鬼のような形相で叫んだのだった。
――だが、その直後。
「見つけたぞ!」
「お前が、我らの可愛いアイドルに手を出した男だな!?」
「こんな地味男かよ」
「おいおい〜。こんなやつかよ〜。マァ〜ジで、がっかりだわ。もうちょいイケてるやつかと思ったのによぉ〜」
賊のような服装の大男複数人が突然部屋に入ってきて。
「ま、いっか。さくっと終わらせよ」
「お前!! 我らの可愛いアイドルに手を出しやがって、許さないぞ!!」
「こんな地味男秒で消そ」
「それなぁ〜。こ〜んな男が可愛い子ちゃんに手を出したらどうなるか……分からせてやろぉ〜ぜぇ〜」
その男たちの手で、カーザースはこの世を去らされたのだった。
「ふぅ、終わった終わった」
「ぎゃはは!! めちゃくちゃ弱かったな!! 五分もかからず仕留められたな!!」
「地味男だし」
「まさにそれえ〜。ざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁ〜、って感じだなぁ。雑魚男はくたばれぇ〜。ざまぁざまぁざまぁ、ざまぁ〜」
目の前で彼が落命するなんて……。
さすがに想定外。
さすがに予想外。
だが、もう婚約者同士ではないのだから、彼がどうなろうが知ったことではない。
◆
そんな事件から三年。
私は今、服屋を営んでいる。
仕事に打ち込む日々はかなり忙しいけれど、とても楽しく、今は「充実している」と迷いなく心の底から言える。
◆終わり◆




