婚約破棄、その時は唐突にやって来ました。〜しかし彼らは幸せにはなれないのです〜
学園時代に告白されて、私は彼と付き合うようになったのだけれど――。
「ごめんな、フィオナ」
「え」
「お前との婚約だけど、破棄するわ」
婚約までしていた彼リゼンツは驚くくらいあっさりと関係を壊す道を選んだ。
……しかも、他の女性を隣に置きながら。
「婚約、破棄……?」
「そうすることにしたんだ」
「そんな。急すぎるわ」
「だからごめんって言ってるだろ。それ以上何を求めるんだお前は。謝ってるんだからもういいだろ。そういうの、面倒臭い」
浮気されていた……?
でも私は気づいていなかった。
まさに今この時まで。
まるでそれが当たり前であるかのように、彼のことを信じていた。
彼が裏切るなんて思わずに……。
「フィオナさん! 身を引いてください!」
リゼンツの隣にいる赤毛の女性が口を挟んでくる。
「こんなことになってすみません……。ですが! リゼンツ様が愛しているのは貴女ではなく私なのです! ですからどうか、諦めて。現実を受け入れてください!」
懸命に訴えてくるが、不愉快以外の何物でもない。
「話がおかしいわ。貴女、リゼンツに婚約者がいることは知っているのでしょう? ならば、身を引くべきは貴女よ」
「愛されているのは私です!」
「そういう問題じゃないわ」
「話を逸らさないでくださいねっ」
「それはこちらのせりふ」
「リゼンツ様が愛しているのは私! なら話は簡単じゃないですか。フィオナさん、貴女はもう要らないんですよ!」
何を勝手なことを――言おうとしたけれど、直前で呑み込んだ。
なぜならリゼンツは彼女を護るように立っていたから。
「フィオナ、彼女を責めるのはやめてくれ」
「だっておかしいじゃない……!」
「彼女は悪くない。ただ魅力的なだけで。彼女から迫ってきたわけでもないし」
「なら悪いのは貴方よね」
「……そう思われることは受け入れる」
「そう思われる、って。言い方が変よ。だって事実なのに。そんな言い方をしたら、まるで私が勘違いでもしているかのようじゃない」
色々言ってはみたけれど、彼の心は少しも揺れ動かなくて。
「とにかく、前とは終わりだから」
理不尽に切り落とされて。
関係はそのまま終わってしまったのだった。
数日後、リゼンツとあの女性はデート中に山賊に襲われた。
それでリゼンツは帰らぬ人となってしまう。
また女性は誘拐されて山小屋に監禁されることとなってしまったようだ。
あんな形で結ばれようとした二人だったけれど、結局、幸せにはなれなかったようだ。
だがそれもそういうものだろう。
ある意味定めというか。
他者を傷つけ、他者を蹴落とし、それで純粋な幸福を掴めるなんて――あるわけがないのだ、そんな都合の良い展開。
◆終わり◆




