お金が増えた途端に寄ってくる人なんて……好きになるわけがないでしょう?
婚約者ラオから婚約破棄を告げられた、自宅への帰り道。
寒い風に震えながら。
独り、夕暮れを歩く。
まるで世界から私以外の人間がすべて消えてしまったかのようだ。
昨日までは明るい未来を夢みることができていた。けれども今は……そういったものを、未来を、視認することはできなくなってしまった。なぜならすべてが壊れたからだ。信じていたもの、信じてきたもの、もう何もない。私に残されたのは寂しい空白だけ。そう、私はただ……ただ、寂しさの中で息をしている。
――だが翌日。
「見てくれ!」
「どうしたの父さん、こんな早い時間に」
「宝くじ当たった!」
「えっ……」
「し、しかも、しか、も……それが、一等! 大当たりなんだ!」
転機が訪れる。
「え、ええっ……えええええ!?」
思わず衝撃の声をこぼしてしまう。
「嘘みたいな話で、わたしも、なかなか信じられなかったのだが……事実なんだ! ほん、ほんと……本当に、当たったんだ!」
こうして大金持ちになった私を含む一家は、より一層穏やかに過ごせるようになり、幸せを掴むことができたのだった。
ああ、そうだ、そういえば。
宝くじが当たったと聞いたラオがいきなり家へやって来て「今ならやり直してやってもいい」なんて言ってくる出来事があった。
……当然断ったけれど。
お金が増えた途端に寄ってくる、なんて、最低な人間だ。
そんな人は信用できない。
そんな人は好きではない。
◆終わり◆




