「好きだよ、だからずっと……僕と共にあってほしい」そんな風に言ってもらえていた頃もありました、懐かしいですね。
「好きだよ、だからずっと……僕と共にあってほしい」
……そんなことを言われたのはいつのことだったか。
もう思い出せないくらいずっと昔のよう。
けれどもそんなに昔ではない。
あれは婚約を決めた頃だから、多分、一年ほど前くらいだっただろうか。
けれどもその言葉は……。
◆
「君との婚約、破棄するよ」
私たちは落ちてゆく。
悲しみは弧を描くように手にしていたものを失わせる。
「僕は思ったんだ。君みたいな中途半端な相手で妥協するのは良くないって。やっぱり後悔するような人生を歩むのは問題だよなって思ってきてさ。だから僕はもっと良い相手を見つけて結婚する。……後悔しないように」
彼との日々。ずっと続いてゆくと思っていたのに。あまりにも唐突にやって来た終わり。それは私に何かを選ぶ隙を与えてはくれない。
「今までありがと、じゃあね。ばいばい」
終わってしまった。二人の関係のすべてが。
もう戻らない。
もう取り戻せない。
◆
あの婚約破棄の後、元婚約者である彼は良い結婚相手を探す活動に入ったようだ。
しかし彼が納得できるような良さげな相手はなかなか見つからず。相手探しはかなり難航したようで。
そのうちに段々心が弱ってきた彼は、たびたび体調を崩すようになり、やがて一日のほとんどを自室のベッドの上で過ごさなくてはならないような状態になってしまったそうだ。
それゆえ、今はもう結婚相手探しをできるような状態ではないらしい。
彼の夢は根本的なところから砕け散った。
なんてことのない普通の暮らしさえ……。
もう戻らない。
もう取り戻せない。
ただ、彼は相手の気持ちを少しも考えない身勝手な婚約破棄をした人だから、どんな目に遭ったとしても可哀想とは思わないし思えない。
◆終わり◆




