いつまでも過去を振り返ってはいられません。希望を信じて進みます。
「貴様のようなくだらない女といつまでも一緒にいる気はない! よって、婚約は破棄とする!」
婚約者アーデルハイン・ディアモ・ティトラポッターザンはそんなことを宣言したのだが――その次の瞬間、謎の閃光が視界を貫き、気づけばアーデルハインはその場で血を流して倒れていた。
だが可哀想とは思わなかった。
なぜなら彼はこれまでずっと私に心ないことをしてきていたからだ。
アーデルハインはいつも高圧的だった。私の顔を見るたび傷つけようとするかのような言葉を投げかけてきて。私を一人の人間として見ることはなく。まるで汚い獣でも見るかのように私を見て。彼はいつだってそんな風に接してきていた。
……だから彼が死にかけていても悲しくはない。
私を傷つけてきた人を、私を見下してばかりいた人を、救おうなんて思わない。
天罰が下ったのよ。
そう言ってやりたいくらい。
……さすがに言わなかったけれど。
「さようなら、アーデルハインさん」
ただ一つ、それだけ口から出して、私はそのままその場を離れたのだった。
◆
私とアーデルハインの婚約はアーデルハインの死によってあっさりと終わった。
婚約破棄と言われていたけれど。
そんな話以前の問題として婚約は破棄になったのだ。
……なんせ片方が死んでしまったのだ、どうしようもない。
呆れるほどあっさりとしたさよならだったけれど。
でも悲しくはなかった。
愛してもいなかった、否、むしろ嫌いなくらいだった……そんな人との別れがいきなりやって来ても、さすがに悲しさは感じられない。
私はまた、ここから、新しい人生を始める。
今はその準備で忙しい。
だからいつまでも過去を振り返っているつもりはない。
希望を、未来を、見据えて歩こう。
それが最善の道。
そう思うからこそ。
◆終わり◆




