好きなものを婚約者から完全否定されるというのは辛いものです。ただ、それでも、人は今日を生きてゆくのですね。
親の影響で幼い頃から魔物と触れ合うことが好きだったのだけれど、二十歳の時にできた婚約者ハルバリオから「魔物に興味のある女なんてサイアク」と言われてから、私は自分の好きなものを好きと言うことが怖くなってしまった。
この世界では人と魔物はある程度共存している。
凶暴でないタイプの魔物は特に。
魔物に仕事を手伝ってもらったり、可愛い魔物を飼育したり、この国にはそういう人もいるのだ。
ただ、中には魔物否定派の人間もいて、そういう人たちは異常なまでに魔物という存在を嫌っている。
ハルバリオはその一人であったのだ。
そんなある日。
彼が見知らぬ女性と歩いているところを目撃する。
そしてそのことについて追求すると。
「はぁ? 仕方ないだろ、メリーは可愛いんだから。お前みたいな女とは違うんだよ。てかさ、そもそも、お前が魅力なし女だから俺は他の女と関わらなくちゃならなくなったんだろ? お前のせいなんだよ全部。そんなことも分からねぇのか? ったく、どこまでも馬鹿だなお前は」
そんなことを長々と言われた、その上。
「ま、もういーわ」
冷ややかな視線を向けられて。
「お前との婚約、破棄するわ」
しまいにはそんなことを言われてしまった。
「貴方が婚約破棄する側ですか? 浮気しておいて? それはおかしいです」
「はあぁ!? 何を偉そうに! 黙れよ! 黙れゴミ女!!」
「……分かりました。ではお互いの両親を呼びます。そこで改めて話し合いましょう」
「何でだよ!!」
「それが最善でしょう?」
「やめろ! 親なんか関係ない話だろが! 話を大きくしようとか、クソ過ぎだろ!」
その時になって慌て出すハルバリオだが、今さら慌ててももう遅い。
その後、お互いの両親も呼んでじっくり話し合って。
――結果、正式に婚約破棄となった。
婚約破棄する側は彼ではなく私。
切り捨てられるのは私ではなくて彼である。
だがそれは当然のことだろう。
なんせ、悪いことをしたのはあちらなのだから。
私は何もしていない。やらかしてもいない。浮気について多少意見を言った程度でしかないのだから。こちらが悪者にされる理由はない。
「ふざけるなよおおおおおお!!」
ハルバリオは激怒していたけれど、私にはもう何の関係もない。
◆
あれから五年。
私は今、魔物の調教師の資格を取り、魔物たちと触れ合いながら生きている。
ハルバリオとの件は色々大変だった。が、それを越えて今があるのだと思えば、この道を歩んできたことを悔いることはない。経験すべてが今の私を形作っているのなら、無駄だったことなんてないのだと理解できるから。痛みも、苦しみも、すべてを糧として、今日の私を築き上げられたのだと受け入れられるのだ。
ちなみにハルバリオはというと、あれからも誰かと婚約しては浮気してしまい婚約破棄されるといったことを繰り返してしまっているそうだ。
また、三度目の時には親から勘当を言い渡されたそうで、もう彼には味方はいないのだとか。
……まぁ、当たり前か。
彼は他者を傷つけるようなことをしてきた。
その償いはいつかはしなくてはならない。
償いがどんな形になるかなんていうのは神様しか知らないことだろうけれど、身勝手な行いで他者を傷つけたという罪を償わなくてはならないということは間違いないことなのだから。
◆終わり◆




