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一日だけの主役

五辻希乃愛視点(次話連続投稿)


 前世のことを思い出し、ここが漫画の世界と酷似していると知ったのは初等部の頃。

 幼馴染で従兄の久世光太郎はずっと憧れの兄のような存在だった。けれど、五辻希乃愛の運命を知ってからは抗いたいという想いの方が強くなった。


 久世光太郎に恋をした希乃愛は、彼の婚約者の雲類鷲真莉亜を恨む。傲慢な真莉亜は光太郎のことを嫌い、ワガママで振り回していた。

 大事な光太郎が真莉亜に縛られて生きていくことから解放したかった希乃愛は、光太郎への想いを募らせて精神的に追い込まれていく。報われないのなら、せめて想い人を苦しめる女を排除すると決意して、真莉亜を殺した。

 そして、後に浅海奏と天花寺悠にバレて、追い込まれた最後は飛び降り自殺をする。


 そんな絶望的な運命だった。



 だからこそ、私は久世光太郎に恋をしたくなかった。それなのに彼の笑顔に、彼の裏表のない言葉に惹かれてしまった。




 私が初等部五年生で光太郎が六年生のときのことだ。


「希乃愛、誕生日おめでとう」


 あからさまに避けていた私に光太郎は嫌な顔をせずに接してくれた。私の頭を撫でてくれる優しい手。あまり笑わない光太郎は幼馴染の私には笑みを見せてくれる。


「あ、ありがとう……」

「今日は希乃愛の誕生日だから、したいことがあればなんでも言っていいぞ」

「……じゃあ、遊園地に行ってみたい」


 人混みが嫌いな光太郎は嫌がるものだと思っていた。けれど、少し驚いたように目を見開いた後、すぐに笑って頷いた。


「いいよ。行こうか」

「え……いいの?」

「今日は希乃愛が主役だからな」


 前世でも、漫画の中の希乃愛も決して主役になれるような人間ではなかった。自分よりも眩しい人たちがたくさんいて、僻んでばかりだった。

 けれど、光太郎は私を見てくれる。大事にしてくれる。たった一日だけの魔法だとしても、私を主役にしてくれる。


「ほら、行くぞ」


 光太郎が私の手を引いて歩き出す。立ち止まって悩んで、苦しんでいた時間が動きだすような気がした。


 一歩、一歩と進むたびに甘く痺れるような感覚が胸に広がっていく。


 好きになんてなりたくない。この気持ちは決められたものかもしれないのに。それなのに————



「……光太郎」

「どうした?」


 ふり返る光太郎と視線が交わる。彼の優しさを独り占めしたいなんて無謀なことが頭を過った。

 彼は私のことを妹としてしか見ていない。それでも、私を見てほしいなんて————叶わない想いが苦くて、虚しかった。






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