私は私の持つ力を使って、守ってみせるから
カウンセリングルームに着くと、中にはスミレと瞳、流音様、景人、雨宮、桐生拓人がいた。不安げな表情のスミレと目が合って、咄嗟に視線を逸らしてしまう。
「真莉亜! 大丈夫!?」
「スミレ……あの、私」
噂が流れて、お昼も別でと言われてしまったとき、周りの人たちは離れていってしまうんじゃないかって思った。一人になる覚悟をしないと花会に行く勇気さえなかったんだ。
「みんなが離れていってしまうんじゃないかって不安だった。瞳達は花会で私のこと守ろうとしてくれていたのに。落ち着いて考えれば、そんなことないってわかるはずなのに怖くて……」
私はいつの間にみんなといることが当たり前になって、離れることが怖くなってしまったんだろう。きっと自分で思っている以上にみんなと過ごす時間が好きなんだ。
目頭が熱くなって隠すように俯く。こんな弱気な姿を見せてしまって情けない。
「真莉亜」
私を呼ぶ瞳の声が聞こえる。
「よく聞いて」
頬に手を添えられて、少し強引に上を向かされた。真剣な表情の瞳と視線が交わる。
「私は大事な友達を傷つける人を許さない。その友達の中には真莉亜も入っている。一人で抱えないで私たちを頼って。私は私の持つ力を使って、守ってみせるから」
瞳はやっぱりかっこいい。瞳の言葉には力があって、女の子なのに童話の中の王子様みたいにキラキラとしている。私にくれる言葉はどれも本気なのだと伝わってきて、視界が僅かに歪んでしまう。
「ストレス溜まったらカシフレ活動で発散しましょう!」
「いや……ここは呪いで対抗するべきだな」
「オカルト禁止!」
「菫の君、それは存在否定だ!」
スミレと流音様の会話に少し笑ってしまった。彼女たちは相変わらずだ。だけど、きっと心配してくれていたからここにいてくれたのだろう。
「みんな、ありがとう」
今度はちゃんと全員と向き合って、お礼を言った。この顔ぶれを見れば、私の知らないところでなにかしてくれていたことくらいわかる。
「どういたしまして、ってことで一件落着だよな」
「景人様が動いてくださっていたなんて意外でしたわ」
「僕だって友人のために少しは動くよ。お礼に今度弁当よろしく」
……私に弁当を作れと。できるかしら。ここぞとばかりに張り切ってしまおうかしら。
「真莉亜、手作りじゃなくてもいいと思うよ」
「え? あら、瞳顔色が悪いわよ」
体調不良かしら。ああ、そうだ。雨宮に関してはあとでちゃんと吐いてもらわないとね。英美李様の件は教えてくれたけれど、みんなのことは教えてくれなかったし。
目が合うと雨宮がなにかを悟ったのかわざとらしいくらいの微笑みを浮かべて「どうしたの?」と首を傾げた。……あとでたっぷり聞き出そう。
英美李様の処分に関しては、今後怪しい動きをしない限りはなにもしないとみんなに伝えた。英美李様が私を陥れるようなことをしたら、除名させるために動くつもりではいるけれど。
そんな私の考えを蟠りが少し消えた様子の桐生兄弟は「甘い」と不満げだった。瞳やスミレはそれが私の考えならいいと思うと言ってくれたけど、流音様は「呪い」とにやにやしていた。怖い。浅海さんや天花寺も私の考えに賛同してくれたようだし、英美李様の件は公にはしない。現時点では。
それにものすごく好きな相手に自分の悪事がバレてしまったこと以上に英美李様への罰はない気がする。あんなに盲目的に恋をしていたのに、好きになることはないって言われてしまったわけだし。
あの様子だと今後は好き勝手できないだろう。
あとは家に帰って、蒼とちゃんと話をしよう。
姉として、家族として、蒼の傍にいたい。誰になんて言われても、私たちは姉と弟だ。




