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緊急花会


 うう……胃が痛い。これって公開処刑? 花ノ姫から首チョンパ?

 普段はダリアの君が花会を開くけれど、今回の主催者は牡丹の君。


 嫌な予感しかない。だって、牡丹の君ってダリアの君のことを一方的に嫌っている。理由は自分が会長になれなかったからだけど。そして、ダリアの君に可愛がられている私のことを牡丹の君はよく思っていない。


庭園にはすでに殆どの花ノ姫が集まっている。私が来た瞬間、一気に視線が向けられて、弱気になりそうな心を気合いで支える。この危機を乗り越えるしかない。

 堂々としていよう。私はなにも悪いことはしていないんだもの。


 榊原利沙様こと牡丹の君と目が合ってしまった。綺麗に巻かれた肩口にかかるくらいの黒髪に少し濃いめの目元の化粧。

 わざとらしく微笑まれたので、会釈だけしておく。この人のことは昔から苦手だ。今回私はこの人相手に戦わねばならない。


 すべての席が埋まると、ダリアの君が優雅に紅茶を飲んでいる牡丹の君に声をかけた。


「どういうおつもりで、突然花会を開いたのかしら。牡丹の君」

「あら、ダリアの君が察していないわけないわよねぇ。学院内で噂されていることについてですわ」


 早速本題だ。さぞかし牡丹の君にとってはこの件は美味しい美味しい餌なのだろう。


「それで、紅薔薇の君。噂されていることは真実なのかしら」

「お待ちになって。それが真実であってもなくても、私たちが口をだすことではないわ」

「あら、ダリアの君。私は紅薔薇の君にうかがっているのよ。花ノ姫として、貴方はどう対処するおつもりなのかしら」


 にっこりと微笑みを浮かべて首を傾げる姿は優しげに見えるけれど、牡丹の君の目は笑っていない。この人は、たぶん私がなにを言っても納得しない気がする。


「少しよろしいでしょうか」


 声を上げたのは瞳だった。


「何故、真莉亜を責めるような言い方をされるのですか。そもそも問題なのは、あのような噂を〝故意〟で流した方ですよね」


 今日は瞳ともスミレともほとんど話をしていない。そんなことないと信じたかったけれど、お昼は別でと言われてしまって避けられているのかと思っていた。だから、瞳がこの場で私を庇うような発言をしてくれたことに少し驚いてしまう。

 私と蒼のことを聞いて、もしも瞳たちと距離ができてしまったらと思うと正直怖かったんだ。


「それではまるで、誰かが紅薔薇の君を陥れるためにわざと広めたみたいだわ」

「そうですね。私はそう思っています」


 穏やかだった牡丹の君がわずかに眉根を寄せて、瞳を見遣った。瞳は顔色一つ変えずに、冷静な口調で言葉を続ける。


「それに真莉亜を責めるのはおかしいです。彼女にはなんの落ち度もありません。ダリアの君がおっしゃったように私たちが真莉亜の家の問題に口を出すべきではないと思います」


 避けられてしまっているのかもと思ってしまった自分が情けない。瞳やスミレはそんな人たちじゃない。花ノ姫としての立場とかよりも、友達を大事にする人だ。

 今まで一緒にいたのだからそれくらい考えればわかるはずなのに、自分で思っている以上に私は弱っていたのかしら。


「噂になってしまい花ノ姫の傷がつくとお考えであるのなら、花ノ姫の制度を管理している理事長にこの件をお伝えして、判断を仰ぐべきかと」


 そんなことできるわけがない。そうわかっていて瞳は言ったのだろう。私の伯父である理事長に報告なんていくら花ノ姫とはいえ、できるはずがない。


「ここ最近、真莉亜の周りで彼女を陥れようとしているようなことが起こっていました。心当たりがある方はいるのではないでしょうか」


 ……どうして瞳がそんなこと知っているのかしら。それともプールの件や画像の件でさすがに私が狙われているって気づいた?


「それではこの中に犯人がいるように聞こえるわ。なんだか本日のあなたは少し攻撃的ですわね」

「友人が傷つけられて黙っていられるほど、私は温厚な性格ではないので。敵意を向けているのであれば容赦なく、自分のやり方でやり返します」


 牡丹の君からは笑顔が消え、顔を顰めている。そんな中、雅様だけは相変わらずの余裕な微笑み。まあ、彼女は犯人ではないだろうし、私が追い詰められているのを傍観して楽しんでいるんでしょうね。


「先ほどから黙って聞いていれば、牡丹の君に向かって失礼よ! 白百合の君」


 今日は大人しくしているのかと思いきや英美李様が場の空気を裂くような大きな声で瞳を非難した。


「親しいあなたたちが流した可能性もあるわよね。蒼様が養子だということを知っている人なんて限られているでしょう!」

「英美李様こそ、特待生の浅海くんと仲良くしている真莉亜に対して不満を持っていたわよね」


 基本的に花会で発言をあまりすることのないスミレが珍しく好戦的なことを言った。私以外の花ノ姫も驚いたらしく、スミレに視線が集まる。


「菫の君、まさか私を疑っているの!?」

「そんな風に怒るのも動揺しているように見えるわ。なにか隠し事でもあるのかしら。そもそもどうしてこの件がそこまで問題なのかスミレにはわからないわ」

「わからないですって!?」


 今にも掴みかかりそうな勢いで英美李様がスミレを睨みつける。スミレは臆することなく冷ややかな視線を英美李様に向けていた。


「義理の姉弟というのはそんなに問題なのかしら。血の繋がりはあるのに?」

「一応血の繋がりがあっても、本当の姉弟ではないことを隠していていたのよ! 学院内ではこのことに対して不快感を覚えている人だっているわ!」


 はっきりと突きつけられると少し堪える。英美李様の言う通り、この件で私を見る目が変わった人がいることは確かだ。向けられる視線から嫌悪が伝わってくる人だっていた。


 先ほどから花ノ姫たちが騒ついている。私を責める気だった牡丹の君もわずかに困惑の色が見える。


「血の繋がり、ってどういうことかしら」


 そんな声が聞こえてくると、スミレが隣にいる瞳を見遣った。まるで示し合わせたように瞳もスミレに視線を送っている。

 ……ふたりは一体なにをする気なの?


「英美李様はこの件はどうやって耳にしたのかしら」

「私が朝来たときには広まっていたのよ! それがなによ」

「おかしいですわね。ふたりが血の繋がりがあるなんて、記事には書かれていないわ。先ほど、スミレがふたりに血の繋がりがあると言っても、英美李様は驚きませんでしたね」

「なによ、それ、そんなの……尾ひれがついただけかもしれないでしょう。血の繋がりがないのなら、もっと問題だわ」


 攻撃的だった英美李様が弱っていき、スミレの方が迫力を増していく。記事というのがよくわからない。けれど、スミレと瞳の様子からすると私と蒼に血の繋がりがあることは知られていないということなのかしら。


「くだらない。花ノ姫同士が陥し入れあってどうするの」


 英美李様とスミレの口論に割って入ったのは撫子の君こと小笠原征子様だった。ダリアの君と親しく、常に行動を共にしている人だけれど争いを嫌い、落ち着いている人だ。


「今回の件だけれど、私の考えはこれ以上噂話に振り回されないこと。花ノ姫同士でここぞとばかりに陥し入れあうのはみっともないとは思わない? ねえ、牡丹の君」


 撫子の君は腕を組み、目を細めて牡丹の君を見遣った。花ノ姫の中で怒らせるとこの人が一番怖いかもしれない。

 牡丹の君はなにも言い返さずに渋そうな表情をした。


「ただし、もしも今回の件を花ノ姫の誰かが故意に起こしたことなら、副会長である私がそれ相応の処罰をするわ。意味、わかるわね? 金雀枝の君」


 撫子の君の視線が英美李様に向けられる。怯んだ様子の英美李様は表情を隠すように俯いてしまった。

 庭園が静まり返る中、重苦しい空気を破ったのはパペットだった。掲げられたうさぎパペットの口が大きく開かれる。


「悪いことをすれば己に返ってくるぞ。それを覚悟することだな」


 こんなときでも怪しげなことを言う流音様……さすがです。静まり返ったものの、重たい空気は少しだけ和らいだ。


「会長として言わせていただくけれど、私は真莉亜さんを咎めるつもりはありません。彼女には非などありませんもの。内部で揉めるのではなく、花ノ姫として私たちが堂々としていましょう」


 ダリアの君の穏やかな言葉により、花会はお開きになった。

 とりあえずは現状のまま私の花ノ姫としての立場は守られたようだった。とはいっても、一部からの視線はかなりきついものだけれどね。元々理事長の姪だから花ノ姫に入れたくせにと思っている人がちらほらいることは知っている。


 さてと、一応花会は乗り切ったことだし。あの人と話をしに行きましょうかね。






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