閑話:残念系お嬢様たちの休日
真莉亜、スミレ、瞳、流音が乙女ゲームをプレイするという休日です。
休日に流音様の家にスミレと瞳と共に集まって遊ぶことになった。いつもどおりお菓子を食べてお喋りをするかと思いきや、流音様が一緒にやりたいことがあると言い出した。
「最近よくたっくんを怒らせてしまうのだ。そこで、これで勉強をしようと思って購入したのだが、一緒にやらないか」
流音様のパペットがくわえているのは、ゲームのソフトのようだった。受け取ってタイトルを読み上げる。
「俺様学園……?」
どうやら乙女ゲームらしい。あらすじを読んでみると、俺様しか出てこない私個人としてはあまり嬉しくない乙女ゲームらしく、ツンデレ系俺様や年下俺様、ヘタレ系俺様など属性が書かれている。……ヘタレ系俺様っておかしくない?
「攻略ゲームってことは弱みを見つけて倒していくのかしら」
「スミレさん違います」
「とことん罵倒していくのも楽しそうね」
「スミレさんだからそれ、楽しみ方違います」
私のつっこみを聞いているのか聞こえていないのか、スミレはやる気満々だった。瞳はどちらでもよさそうだったので、とりあえずテレビにゲーム機を繋いで、プレイしてみることになった。
「俺様系ツンデレが一番桐生に近そうだね」
説明書を読んだ瞳の言葉を聞いていないのか、流音様は勘違い系俺様を選んでしまった。……流音様、桐生のことそんな風に思っているの? それともただ単にやりたかっただけ?
「名前を決めるみたいだわ! そうね……あの男の下の名前はなんだったかしら」
「たっくんだ」
「OK。たっくん、っと」
え、ちょっと待ってー! それ、相手キャラの名前じゃないから! プレイヤー、つまりは自分の名前だから! おかしなことになっちゃうよ!!
「ああああああああ」
「真莉亜、すっごい顔になってるわよ! 顎がはずれちゃうわ!」
「スミレ! 名前! 名前が!」
「思い出せないの? うるわし、まりあ。それが名前よ!」
「そうじゃない! 自分の名前くらいわかるわよ!」
すっごい勘違いをしてしまったことになんでこの人ら気づいていないの!
軽快な音楽が流れて、オープニングが始まる。女性ボーカルの歌にのってヒロインや各男キャラが紹介されていく。それが終わった後、攻略キャラとの物語が始まった。
【たっくん:いい天気。今日は中庭でお弁当でも食べようかな】
ほら! おかしいでしょう!!
ヒロインの名前が〝たっくん〟になってしまっていることに気づいたスミレと流音様はしばらく硬直していた。けれど、やり直すのもめんどうだと言い出してこのまま進めることになった。
いや、これ絶対やり直したほうがいいから。
【たっくん:あれ……木の上に誰かいる。もしかして寝てる……?】
どうやら木の上で攻略対象キャラが寝ているらしい。
【▶︎声をかける
▷木を揺らす
▷木のそばで寝る】
さっそく選択肢が出てきた。これは多分最初の声をかけるだろうな。
「任せて」
スミレはコントローラーを握ると、〝▶︎木を揺らす〟を選んでしまった。冷静に考えて、それ絶対選んじゃいけないやつじゃないの!?
【たっくん:よしっ! 木を揺らそう!】
どてんと何かが落ちた音がした。これはもしかしなくとも、一つしかない。
「うわははは! いい気味だわ!」
スミレの楽しみ方が間違ってる!
【??:「…………俺の眠りを妨げたのはお前か?」】
え、言うことそれだけ!? もっと他に怒ることない!? 木から落とされたけど! しかも、スチルでてきた! 木から転げ落ちてるやつ。なにこのスチルの無駄遣い!
【??:「なに見惚れてんだよ」】
【たっくん:「み、見惚れてなんてないわ!」】
なんだこのむず痒い会話は。
【??:「お前、名前は?」】
【たっくん:「たっくんよ」】
【??:「たっくんか。へぇ」】
……文字だけ読んでると別のものに見えてしまう。瞳は呑気にお茶を飲んでいるけれど、スミレと流音様は画面に釘付けだ。
【??:「俺の名前は礼矢。綾小路礼矢だ。しっかり覚えておけよ」】
【たっくん:これが礼矢と私の出会いだった――――】
ここでエピローグが終了らしい。物語よりもヒロインの名前がたっくんということが気になってしまって集中できない。
***
ようやくエンディングまでたどり着いた。二人を襲う数々の障害を乗り越えて、絆は強くなっている。スミレと流音様は感極まって目が潤んでいる。瞳はそんな二人を見守るマザーだ。私は心の中でゲームにツッコミを入れすぎて疲弊していた。
【礼矢:「俺さ、あの日……出会った日から、お前に落ちてたんだ」
【たっくん:「えっ、それって……」】
落ちたのは木じゃなくて恋なんですか。これ狙ってたんですか。
【礼矢:「お前もだろ?」】
【たっくん:「そ、それは」】
いや、それは違う。あの時点ではあんたの片思いだわ。
【礼矢:「たっくんが好きだ。答えを聞かせろよ」】
【たっくん:「わ、私」】
【礼矢:「いい加減認めちまえ、たっくん」】
なかなか強引ね。あ、ここで抱きつくスチル。
【たっくん:「私……私も礼矢くんが好き!」】
どうやらこれで二人はくっついたらしい。ジャカジャカと謎のBGMが流れ始めて、グッドエンディングと出てきた。
……私たちはいったい何を見てきたのだろう。名前設定をミスったことがまず間違いだった気がする。
「二人がうまくいってよかったわね!」
「途中でてきたライバルにはひやひやしたな」
盛り上がっている二人の横で本来の目的を忘れていないかと聞いてみると、二人ともきょとんとして首を傾げた。
……どうか流音様がこのゲームで得た知識を桐生に試しませんように。
投稿をはじめて一年くらい経ちました。
以前に比べてスローペースですが、読んでいただけて嬉しいです。
いつも本当にありがとうございます。




