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だんだん近づいてくる


 桐生の誤解をどう解こうかと考えていると携帯電話が振動した。メッセージの相手は珍しいことに久世だった。

 普段はお土産のことや会う前日に何時に向かうなどのやりとりくらいしかしない。それに放課後に連絡が来たのは初めてだ。なにかあったのかしら。


「は……?」


 携帯電話の画面に表示された文面に眉根を寄せる。


 《今、お前の教室にいる(雛子さんと一緒)》


 それはいったいどういう状況なのよ。雛子というのは私の伯母だ。

 気性が荒く、傲慢な伯母様は面倒な人なのでできればあまり関わりたくない。久世のことを気に入っているらしいけれど、学校で一緒にいるだなんてどういうことなのだろう。それにこれは私のことを捜しているってことなのかしら。


「どうしたの、真莉亜」

「なんでもないわ」


 不思議そうにしている瞳に微笑みを向ける。ここにいればバレない可能性が高い。できれば会わないでおきたい。

 返信もしていないのに続いてメッセージが届いた。


「は!?」


 《今、高等部の校舎を出た(この写真に覚えはあるか)》


 添付されていたのは私と浅海くんが図書室で話していたときのものだ。これは一木先生が撮ったもので、彼のデータは削除したはず。今この写真を持っているのはあの人のはず。まさか伯母様に送りつけたということ?



《今、東校舎の前(目撃証言あり)》


「はあ!?」


 なにこれ、どんどん近づいてきているじゃない! てか、だんだん近づいてきていて怖いんだけど。ここが見つかるのも時間の問題だ。どうしよう。ここには浅海さんもいる。伯母様は特待生制度なんてなくすべきだと言っているような人だ。鉢合わせしたら、きっと酷いことをたくさん言われるだろう。


「ま、真莉亜どうしたの? やっぱりなにかあった?」

「い、いえ……その」


 伯母様に第二茶道室にみんなで集まっていることを知られたくはない。楽しいこの空間をあの人なら台無しにして、浅海さんの居場所を奪おうとする可能性だってある。きっと私にも付き合う相手を考えろとか言ってきそうだ。

 それならここの場所がバレる前に、違う場所で待っていたほうがいいわね。


「あの、用事ができたので少しの間抜けます」


 私の突然の発言にみんなはきょとんとした表情で固まっている。そりゃ事情もなにもわからないし、意味がわからなくて当然よね。

 雨宮だけはただごとでないのを察したのか、普段の微笑みを消して静かに私のことを見つめていた。その視線から逃れるように第二茶道室から出て、あえてひとつ下の階へ向かう。そして久世に自分の居場所を伝えるメッセージを送った。



 どうせいずれ伯母様とは話をしなければいけなかった。久世との婚約の件だって、最終的には破棄することを伝えるつもりだ。伯母様は久世を気に入っているから激怒するでしょうけど。


 ある意味この写真が送られてきたのはいい機会だ。本当は在学中だけはおとなしくしていようかと思っていたけれど、久世との婚約破棄に向けて本気で動きだすべきかもしれない。

握りしめた手にじわりと汗が滲み、心臓の音が全身に伝わってくるほど自己主張をしている。大丈夫。落ち着け、私。


 廊下に響く、擦れるようなスリッパの音。いつもブランドものに身を包んだあの人には不釣り合いでほんの少し表情が崩れる。

 けれど、すぐに顔を引き締めて振り返ると予想どおり本日も高そうなお召し物。オフショルダーの露出度の高い服装に顔を顰めそうになってしまったけれど、必死に耐えた。この人は相変わらずだ。



「真莉亜」


 この人が私の名前を呼ぶときはいつだって棘を感じる。わかっていたけれど、こうして対峙すると好かれていないことを実感してしまう。

 伯母様の隣にいる久世はらしくもなく、少し不安げだった。さすがに彼も伯母様の扱いには困っているみたいだ。

そして、彼のすぐ後ろにはおろおろとした様子の希乃愛が立っている。確か彼女のことも伯母様は気に入っている様子だったわね。



「これはどういうことなの」


 早速浅海さんと私が図書室で一緒にいる画像を見せられる。苛立っているのか、伯母様の真っ赤な唇が少し歪んだ。







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